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「授乳服を着たライター志望」が「プラダを着た悪魔」を見て一皮むけた話【映画評】プラダを着た悪魔

20代の頃から繰り返し見ている映画、『プラダを着た悪魔』。

爽快感のあるサクセス・ストーリーが大好きなのですが、同時にいつも少しモヤッとする作品でもありました。
理由は、主人公のアンディが最後にする意思決定に納得がいかなかったから
しかしライターを目指してから改めて見ると、そのラストシーンに「なるほど!」と納得できたのでその理由を書きたいと思います。


映画の紹介:プラダを着た悪魔

https://eiga.com/movie/1051/

主人公は、ジャーナリストを夢見てニューヨークにやってきた若い女性・アンディ。
社会問題に関心が高い一方でファッションにはまるで鈍感な彼女が、ひょんなことから超一流ファッション誌『RUNWAY』の編集長ミランダのアシスタントとして働くことになります。
アンディがこのミランダからの悪魔のような司令に悪戦苦闘しながら成長していくユーモラスな作品です。

問題のラストシーン

最初はダサくて同僚から笑われていたアンディは、トントン拍子で素敵なファッションに身を包む超仕事出来る系女子になり、ミランダから絶大な信頼を得ます。
しかしながらアンディは、最終的にミランダのもとを離れ、元の自分が目指していたジャーナリストへの道に舵を切り直すのです。
私はこの結末に、なんとなく違和感を覚えていました。

確かに、ミランダとアンディの価値観に違いはあります。
ミランダは自分の地位を守るために部下を犠牲にする冷酷さ(キャリアへの貪欲さ)があり、情に厚いアンディがそれを許せなかったという見方はできます。
しかし、袂を分かった後に街中で偶然再会する2人には互いを憎み合う様子はないのです。

もしくは、元々社会派ジャーナリスト志望のアンディがファッション誌の仕事には見切りをつけた(やりきった)という考え方もできます。
しかし最初こそファッションに興味のなかったアンディですが、作中では彼女がファッションにどハマリしていく様子が描かれていました。
ミランダと合わないのであれば、別のファッション誌に移るという結末があってよかったのでは?と思っていたのです。

ライティングを勉強して知った、「なるほど」

先日、ライティングの勉強をしていて出会ったひとつのフレームワークがあります。
それは、ヒーローズジャーニー

「ヒーローズジャーニー理論」とは、米国の神話学者ジョーゼフ・キャンベルが、世界の神話を研究するなかで発見した理論です。
この理論では、数多くの神話に共通して見出される、お決まりの展開が解説されています。

幻冬舎ルネッサンスWebサイトより

つまり、古くから世界中の神話で用いられてきた「鉄板の流れ」のことを指します。

ヒーローズジャーニーの鉄板の流れは、以下です。

①日常生活:主人公が冒険を始める前の状況
②冒険への誘い:主人公が冒険に出るきっかけ
③冒険の拒否:主人公は初めての挑戦に戸惑う
④賢者との出会い:メンター登場で主人公は勇気を得る
⑤戸口の通過:冒険の世界へと乗り出す
⑥試練:冒険の洗礼を受ける
⑦もっとも危険な場所への接近:危険な場所へ近づく
⑧最大の試練:主人公にピンチが訪れる
⑨報酬:ピンチを切り抜け宝物を手にする
⑩帰路:自分の帰る場所へ戻る
⑪復活:最後の試練が訪れる
⑫宝を持っての帰還:成長した主人公が帰還し物語は終わり

岡筋耕平 コピーライター/デジタルマーケター

桃太郎も、ドラゴンボールも、ワンピースもこのテンプレートに当てはまります。
そして『プラダを着た悪魔』も例外なく当てはまります。当てはまるどころか、あまりにも忠実にドンピシャで驚いてしまいました。

【ヒーローズジャーニーで整理する『プラダを着た悪魔』の物語】
①日常生活:ジャーナリストを夢見るアンディ
②冒険への誘い:雑誌RUNWAYから、採用されてしまう
③冒険の拒否:硬派なアンディは華美なファッションを拒む
④賢者との出会い:ミランダの片腕・ナイジェルの叱咤激励によりアンディはファッションに目覚めていく
⑤戸口の通過:RUNWAYでの仕事を頑張る決心をする
⑥試練:ミランダからの無茶振り(「刊行前のハリー・ポッターを娘たちに手配しろ」)に見事対応する
⑦もっとも危険な場所への接近:先輩アシスタント・エミリーを差し置いてミランダと共にパリコレへ出発
⑧最大の試練:ミランダがRUNWAYの編集長を降ろされる?
⑨報酬:ミランダのために駆け回り、信頼を得る
⑩帰路:雑誌RUNWAYを辞める
⑪復活:新しい会社での採用面接時、ミランダからの推薦を得て見事内定を得る
⑫宝を持っての帰還
:社会派ジャーナリストへの道へ帰還する

そう、この作品でヒーローズジャーニーを成立させるためには最終的にアンディはRUNWAYで得た宝(経験)を持って元の場所(ジャーナリストを目指す自分)に戻る必要があったのです。
「もっとRUNWAYで頑張ればいいのに〜」と思う視聴者も一定数いるとは思いつつ、やはりこの帰還のシーンがあるからこそ安定の「めでたしめでたし」感があるのだなと気づきました。

『プラダを着た悪魔』は2006年発表で20年近く前の作品になります。
にも関わらず、先月の全米映画俳優組合賞(SAGアワード)の授賞式では本作に出演した3名の女優がステージに集まり話題を呼びました。

ヒーローズジャーニーに忠実な名作は、やはり神話のように時を越えて人に愛されるのですね。
私もこれから何かを書く上で、このフレームワークを意識していきたいと思います。

まとめ

私は3年後の2027年までに、外資系コンサルタントからフリーランス(ライター)への転身を目指しています。

書くことのハウツーを学ぶと、アウトプットだけでなくインプット(他の作品を楽しむ)時もその仕掛けに気づきおもしろさが増し増しになると感じました。

おまけ(余談)

『プラダを着た悪魔』を見た先日の私は、『授乳服を着た産婦』でした(しかも冬場だからという言い訳のもと、一週間洗濯をしていない…)。
キラキラのファッションに身を包むアンディを見て、4月の仕事復帰に向けてまともな服を買い足そうと決意したのでした。

 色のバランスを考えるのが面倒なあまり、産後は白と黒の服しか着てません。もはや『PRADA』ならぬ『PANDA』やで…

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