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八木と曲とプログラムについて①

Klangküche公演のプログラムについて、少し私の言葉で説明をしてみようと思います。プログラムノートというより、私と曲とのエッセイのようになっています。これを書くことによって、聞きに来てくださる方の曲の受け取り方や楽しみ方を狭めることに繋がりかねないとも思いましたが、いろんな方に言われるように少し尖ったプログラムであるので、こんな文章があっても良いかなと。

Klangküche Percussion Duo Concert

東京公演
2022年12月28日(水)
開場|18:15
開演|19:00
会場|トーキョーコンサーツ・ラボ(東京都新宿区西早稲田2-3-18)

名古屋公演
2023年1月8日(日)
開場|14:15
開演|15:00
会場|K・D ハポン(愛知県名古屋市中区千代田5丁目12-7)

Toucher / Vinko Globokar

フランスにて、スロベニア人の両親の元に生まれたグロボカールは、青年期をスロベニアとユーゴスラビアで過ごしたのち、パリの国立音楽院で学びました。その後、私の通っているドイツ・ケルン音楽大学で教授を務めていたこともあり、先日ケルン・フィルハーモニーにて彼の使用していたトロンボーンのマウスピースが展示されているのを見つけました。

Toucher(トゥシェ)はフランス語で「ふれる・さわる」の意味です。ベルトルト・ブレヒト作の「ガリレオの生涯」という戯曲のテキストを読み上げる「声」、打楽器の音色の「発音」を同時に演奏し、私はその音の融合を探し出すことを楽しんでいます。

グロボカールは1967年から1973年までケルン音楽大学で教鞭を執っていましたが、この曲はちょうど最終年である1973年に完成されました。その影響があるのか、すべての説明はドイツ語で、テキストはフランス語で書かれています。私が最初にこの曲を演奏したときは、フランス語は習っていたもののドイツ語は全く分からず、さらに彼の手書きの文字を読み解くのに苦労したので、フランス語で統一してくれればもう少し楽だったのにな…と思っていたものです。

最近ではこのような外国語のテキストを日本語に訳し上演するケースが多々ありますが、この曲においてはフランス語を訳してしまうと楽器の音まで変わってしまうため、フランス語のまま演奏します。

様々な国の奏者がフランス語に取り組み、この曲を演奏していますが、フランス語のイントネーションを楽器のピッチに合わせることによってテキストが「訛り」のようになっていたり、テキストが流暢すぎて打楽器の音とは乖離があったり、逆にとてもはっきりテキストを発音して打楽器の音色に寄せていたり。「正解」も「不正解」もわからないですが、その奏者の個性がありありと反映されるため、誰の演奏を聴いても全く違う印象を受ける一曲です。

フランスの伝説的打楽器奏者、ジャン=ピエール・ドロエの演奏です。


fingercapriccio / Nicolaus A. Huber

ドイツの作曲家であるニコラウス・A・フーバーの作曲したフィンガーカプリッチオは、主に打楽器のボンゴを一風変わった方法で演奏します。譜面にはピアノの楽譜のように「指番号」がふられており、指の先や腹や爪を使い分けながら演奏します。指を思いっきり振りかぶって叩いたり、触れるだけの音で演奏されます。

普段生活していて、指で何かに触れるときに出る音はあまり大きくないと思います。物音があふれる普段の生活ではあまり気にされることはないと思いますが、静かにしないといけない環境での些細な音はとても気になるものです。その印象そのままに、ボンゴに触れる音色を使い分ける、繊細な一面もある曲です。

ボンゴという楽器は、例えば街中だと、カルディのBGMでよく聞こえてきます。あのサルサのBGMのぽこすか鳴ってる太鼓の中にボンゴの音を見つけることが出来ます。ボンゴを触ったことがある方はなんとなくわかると思うのですが、通常であればボンゴは真ん中より端を叩いたほうが、音抜けの良いスカッとした音が出ます。それを「良い音」と呼ぶことが多いです。しかしこの曲のように、ボンゴをピアノのように指で弾く場合、端っこよりも真ん中のほうが太い音がして「良い音」のように感じます。

私が現代音楽に興味を持って続けている理由は、曲の内容もありますが、一番は新しい音への興味なのだろうと感じています。このように一般化された考え方をぐるっと反転させてしまえるような、「良い音」の概念を見つけて拡げること。それが、私がトゥシェとフィンガーカプリッチオを選曲したことの共通点なのだろうと感じています。

私がまだ大学生の頃、新たな現代音楽を聴いてみたいもののとっかかりがわからなかった私は、ケルン在住である打楽器奏者・渡邊理恵さんが両国門天ホールで行ったコンサートにとりあえず行ってみました。(もうまさに打楽器が使われるだろうという理由だけで…)それがおもしろかったので、私もそんな活動をしてみたいなと思って動いたのが「未知への扉」という、過去に二度主催した現代音楽コンサートでした。今思えばとても未熟なものでしたが、それをきっかけにここまで勉強を続けてきたのだなと思います。

実はそのコンサートでもfingercarpriccioを取り上げていました。当時私がその曲を見つけるきっかけになった、渡邊理恵さん、南真一さんのfingercapriccioです。


続きは明日!

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