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元優等生現問題児〜(6)宿命〜

日曜日の夕方は、家の中が忙しない。父が慌ただしく家事をしているからだ。料理を作っている間に洗濯物を取り込み、さらにその間に今朝母から言われていたのか、デジカメの画像をPCに取り込めているかの確認をしている。一方の私は、そんな父の様子を罪の意識のようなものを感じながら時折見つめつつも、テレビを見ていた。父は、私が手伝っても結局途中から全て一人でやってしまう。結局彼一人でやる方が早いからだ。私はそれを自分への言い訳にして、徐々に手伝うことをしなくなった。

この家で家事をする人間は基本的に父しかいない。外で働いている人間も、父しかいない。生産的な父と、それを次々に消費する母、そして非生産的な私。一つ屋根の下でアンバランスに3人が暮らしているのを他人事のように滑稽と思った。暫くして母が帰宅し、私達は何とか家族であることを保つかのように夕食を取った。その際、母がどこに行って来たのか聞くことは暗黙のタブーで、父と私は山の天候のように揺らぎやすい母の機嫌を損ねないことだけに集中して当たり障りのない会話を進めるのだった。そんな最新の注意を払っていても、母は突然キレる。その日は、父の作った豚の生姜焼きの味が濃いという理由だった。私はあなたと違い薄味の上品な家庭で育った、私だったらこんな安物のタレは使わない、と言って彼女は食事の途中で席を立ち、ソファにもたれかかってテレビを見始めた。我慢ならなくなった私は、それならあなたが作れば?と言ってしまったが、これが間違いだった。

「あなたは結婚していないし、私達夫婦のことを何も知らない。あなたの生まれる前からの問題なの。子供であっても言って良いことと悪いことがあるの。」

そうまくし立てた。私は何か言って応戦しようとしたが、ふと父の顔を見て何も頭に浮かばなくなった。無、だったのだ。彼はただ何も感じないようにしていた。彼は前に母がヒステリックになった際、私にこう言っていた。

「俺は彼女が病気だと思っている。冷たい言い方かもしれないが他人を変えることはできない。でもこれがお父さんの宿命なんだ。」

お父さんは悔しくないの?諦めるの?そう思うと涙が目から溢れてきて、私は急いで夕飯を食べ、食器を洗い場に持って行った後、自分の部屋に戻った。泣きながら、暗闇の中に途方も無く長い道が永遠に続いているような、どうしようもない気持ちで眠りについた。

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