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専門家から学ぶ「ロヒンギャ問題」

早稲田大学で開催された、無国籍ネットワークユース主催、2名の大学生フォトグラファーによる写真展「Us~学生が見たロヒンギャ~」。14日は特別企画でゲストを招いての講演会が開催され、上智大学総合グローバル学部教授でビルマ近現代史の権威、根本敬先生、そして日本で最初に難民認定を受けたロヒンギャで活動家のゾーミントゥ氏が在日ビルマ・ロヒンギャ協会を代表して登壇。

ミャンマーラカイン州北部でロヒンギャ住民への大弾圧が起きた2017年8月25日以降、様々な媒体でロヒンギャ問題の歴史的背景や見解、考察を述べられている根本先生。幼少時代にビルマ(ミャンマー)で過ごされた時期もあり、長年に渡りビルマを愛し、在日ロヒンギャに限らず多数派のビルマ族や他の少数民族の人からも信頼の厚い人物である。

今回の写真展で作品を展示したメンバーの鶴颯人くんも自身の連載「ロヒンギャへの道」で根本先生に取材を行っている。

第3回 「ロヒンギャの4つの層ーその歴史ー」 
https://ritsumeikanunivpress.com/03/05/531/

そんな根本先生が冒頭に「やはりロヒンギャ問題についてお話しをするのはいつも心が苦しいです」と仰ったのは印象的だった。(難民問題を愉快そうに話す専門家も居るので...)先生がロヒンギャの歴史において話の軸にされる「4つの層から成るロヒンギャ」についての解説も非常に解かり易かった。

「最大の壁」として挙げられた「ロヒンギャ」の名称についての問題も、「ロヒンギャという名乗りをミャンマー政府や国民が認めない限り本質的な解決は望めない」という見解も実に腑に落ちる。自分たちが「こう呼んで欲しい」と望む呼称を頑なに否定し「ベンガリ」という蔑称で呼び続ける行為は差別や屈辱、人権侵害でしかない。以前に上智大学の講演で根本先生が「歴史的にそうやって民族は生まれていくものなんです」と言い切られていた時の感動が今も心に刻まれている。

バングラデシュに逃れた避難民だけではなく、ラカイン州シットウェで2012年の暴動から13万人のロヒンギャが劣悪な国内避難民キャンプに隔離収容されている状況を強調されていたことも個人的に嬉しかった。

先日ハーグで行われたICJ(国際司法裁判所)の法廷でアウンサンスーチー氏は「Rohingya」というフレーズを使わなかった。(唯一彼女が口にしたのは、ロヒンギャのゲリラと言われるARSAの名称「Arakan "Rohingya" Salvation Army」を読み上げる時だけだった)

根本先生はこれまで「スーチー氏への批判は筋違い」と彼女を擁護されてきた印象が強かったので今回の公聴会についての感想が気になっていたのだが、さすがに今回はトーンが少し違っていた。

「スーチー氏自身の本心は解らない...」、「本来法廷に国のトップであるスーチー氏が来なくても良かったが彼女自ら法廷を訪れたことは評価できる」、「彼女はミャンマーのロヒンギャ虐殺を否定したが"防衛軍のメンバーが国際人道法を無視した不均衡な力が使用した可能性がある"と一部の軍のやりすぎた行為について認めた」、「矢面に立つスーチー氏を批判することは軍の思惑通りになってしまう。軍による虐殺行為を可視化、直接に責任追及できる状態に変えなくてはならない」等と慎重に、そして客席に解かり易く言葉を選ばれていた。

続いて講演された活動家のゾーミントゥ氏。ロヒンギャの「当事者」でもある彼に初めて会ったのは去年4月にアムネスティによる彼の埼玉の職場を訪問する企画だった。その後は様々なイベントでご一緒したり、館林や東大での写真展にも家族を連れて足を運んでくださった。普段彼は英語で講演を行うのだが、今回は日本語だったことにまず驚いた。先日は同じく在日ロヒンギャのアウンティンさんが普段は逆に日本語で講演するところを英語でスピーチしていたように、彼らの「同胞の置かれている理不尽な、厳しい状況を広く伝えたい」という想いの強さを改めて感じた。

彼は母国のミャンマーで長くロヒンギャの人々が受けてきた差別や迫害について語り、「ロヒンギャはミャンマーで人間の扱いを受けていない」、「ロヒンギャは以前与えられていた国籍やIDカードを奪われ、"無国籍化"させた上に2015年には選挙権や被選挙権も失った」、「ミャンマーがこんな酷いことをしていなければ私たちは日本に居ない」、「(ミャンマー政府がロヒンギャのテロ組織と掃討作戦の理由とする)ARSAのことは、私たちもメンバーのことを調べたが知らない人たちばかり」、「抑圧されたロヒンギャには何もできない。国際社会も動いて欲しい」、「日本ではほぼ全てのメディアがロヒンギャという名前を使っているのに日本政府は避けている」、「ロヒンギャの人権を守るようもっとパブリックに伝えて欲しい」、「実際にバングラデシュの難民キャンプに足を運び現実を見て欲しい」、「子供たちの未来を考えてもらいたい」、「大量避難民を受け入れてくれたバングラデシュには感謝しているが、いつまで、どこまでサポートできるのか見えない状況」と想いを訴えた。

会場にはアウンティンさんや、「ロヒンギャ難民100万人の衝撃」著書の中坪央暁さん、群馬県館林在住でロヒンギャのサッカーチーム「サラマットFCに所属する高校生の水野守くん、ジャーナリストの木村元彦さん等も駆け付けて、異様なエネルギーが充満していた。

これが無国籍ネットワークユースの大学生の皆さんによる企画であることが本当に素晴らしいと思う。このような世代を越えて一緒に考えられる機会がもっと増えれば良いと思うし、自分にできることをまだまだやれてないという反省もある。

なお、講演会と写真展の終了後に先月の東大での写真展と合同の打ち上げがあり、根本先生もいらしてミャンマーについて色々とお話を伺うことができた。学びの多い1日であった。


■写真展「Us~学生が見たロヒンギャ~」
写真家:鶴颯人、城内ジョースケ
日時:12/10~12/17
10:00~18:00
場所:27号館ワセダギャラリー(小野梓記念講堂上)

■講演会(予約不要・入場無料)
講演者:根本敬氏(上智大学総合グローバル学部教授)、 Zaw Min Htut氏(在日ビルマロヒンギャ協会)
日時:12/14
14:00~16:00(開場13:40)
会場:早稲田大学3号館502教室

無国籍ネットワークによる告知
https://stateless-network.com/?p=2188

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