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怒れる頭

『怒れる頭』DOTAMA 2018年5月刊 DLEパブリッシング

今から、数年前、テレビの深夜放送にて『フリースタイルダンジョン』と題されたフリースタイル(即興)のラップバトルのTV番組を初めて見た時の衝撃たるは、高校生の時に、第一回アルティメット・ファイティング・チャンピオンシップ(世界初の総合格闘技の試合)を見た時以上のものでした。

そこには、格闘技の試合と同様の熱量で、ステージ上で、マイクをもち、対戦相手を罵倒し、攻撃し、反撃を繰り返す、ラップによる男たちの闘いの姿があったからです。

ソウルやファンクなどの黒人音楽は好んで聴いていたのですが、ラップミュージックは門外漢で、『フリースタイルダンジョン』に出演していた日本人ラッパーにいたっては、ほとんど知る人はいませんでした。

しかし、出演者を知っていようが、いるまいがそんなことは関係なく、ただただ、MCバトルと呼ばれ、DJが流す音楽に合わせ、交互にラップでお互いを罵り合い、ラップのスキルやオーディエンスの心を湧かせたラッパー達の勝負に目が離せなくなり、昨年、番組が終了するまで、毎週、見続けた次第です。

私が見る限り、ほとんどの試合が番組は数百人の観客の前でライブで行われており、ヤラセや八百長の入る余地のない、出演するラッパー達が自分自身の誇りをかけて闘うガチなものでした。

名勝負、泥試合、どちらもたくさん有りましたが、出ているラッパー達、みんないい顔をしているんですね。

MCバトルは即興で音楽に合わせ、高速で対戦相手を罵倒する言葉を紡がなければなりません。集中力が一瞬でも途切れたら、その言葉はきっと出てこないのでしょう。

また、対戦相手がラップをしている時も一瞬たりとも気は抜けないはずです。次のターンで相手の言葉尻や矛盾点を即座に突き、反撃に出なければならないからです。

MCバトルには集中力や即興性だけでなく、相手の矛盾を突く論理性や観客を沸かすユーモアのセンス、ボキャブラリーも求められ、ヒップホップカルチャーを愛するBボーイたちのディベート、知的格闘技ともいえるのです。

そんなBボーイたちが毎週、バトルを繰り広げる番組の中、異色の存在感を放っていたのが、本書の著者であるDOTAMAでした。

ゆったりとしたサイズのストリートファッションを着こなすBボーイたちが主流のなか、DOTAMAのファッションは眼鏡にスーツのトラディショナルなスタイルで、また、そのラップスタイルも極めて独特であったからです。

本書ではそのDOTAMAが日本で一番大きなMCバトルであるUMB(アルティメット エムシー バトル)で優勝するまでの軌跡と生い立ちと半生が綴られています。

栃木という地方の公務員の家系に生まれ、サラリーマンとして2足のわらじを履き、ラッパーとして活動してきた若者の葛藤とその原点が記されておりました。

MCバトルやラッパーに興味がない人にはなんてことはない、イチ自伝であるかもしれませんが、当代一級の詩人たちが繰り広げるMCバトル、ラップ文化をより多くの人に知ってもらえればと思い、取り上げた次第です。

万葉の和歌、芭蕉の俳句と同様に魂のこもったラップは人の心を撃つのではないでしょうか。

拝啓 60秒後に倒れるであろう自分
寿命が来る前に俺たちは何度か死ぬ
心は折れない 立ち止まることは許されない
何度でも生まれ変わって何度でも立つ 必ず
鍛え抜かれた心と体が羽ばたく
息を引き取る時まで闘う
ステージに立つその1秒前
最後になるかもしれない
一歩踏み出す
どんな日常さえ
ゴールに辿り着く前 布石にしか過ぎない
俺は俺を越えるために生まれた
まさに今日この日を迎えた
見ててくれと仲間達やライバルに伝えた
準備は万端だ
目の前の難関は全てOne Chance(ワンチャン)だ
止まっちまったら簡単に終わっちゃうんだ
人生ってライブはみんなのワンマンだ  (般若)





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