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太宰治の「裏返しのナルシシズム」


太宰治を読む。

 太宰治はセーラー服のようなものだ。みんな好きなのに、そうだと言えない。というのは今ふと頭に浮かんだフレーズなので特に妥当性はない。
 かくいう私も兼ねてから太宰作品が好きだ。

 死のうと思っていた。ことしの正月、よそから着物を一反もらった。(中略)これは夏に着る着物であろう。夏まで生きていようと思った。

太宰治「葉」

 ああ、なよなよしていて、どきどきする。

 太宰治と言うなよなよした魂が今にも消えてしまいそうで、どきどきする。危うく、それ故に儚く、純粋に見える。純粋なあまり死に傾倒し身を持ち崩していくような生き方。そんな生き方を自分もしてみたいと、特に高校生くらいの時分には全集を読み漁りその世界観にずいぶん憧れてしまったものである。

 太宰本人もそういう身を持ち崩したい願望を持っていたのだろう。

「待つ」を読む。

「待つ」という掌編。「私」は駅の改札口で誰かを待っていると語る。しかし誰を待っているのか「私」本人は知らず、待っているものは「人間ではないかもしれない」とすら考えている。

 どなたか、ひょいと現われたら! という期待と、ああ、現われたら困る、どうしようという恐怖と、でも現われた時には仕方が無い、その人に私のいのちを差し上げよう、私の運がその時きまってしまうのだというような、あきらめに似た覚悟と、その他さまざまのけしからぬ空想などが、異様にからみ合って、胸が一ぱいになり窒息するほどくるしくなります。生きているのか、死んでいるのか、わからぬような、白昼の夢を見ているような、なんだか頼りない気持になって、駅前の、人の往来の有様も、望遠鏡を逆に覗いたみたいに、小さく遠く思われて、世界がシンとなってしまうのです。

太宰治「待つ」

 本作「待つ」の初出である1942年は太平洋戦争開戦の翌年。
 これから自分が、日本が、世界がどうなっていくのか、先の見えない時代であった。駅前の人々が忙しそうに行き来する当たり前の有様が続く日々の中、同時にそれが明日にはなくなってしまうかもしれないという不確かな不安と不確かな希望、そんな相反する思いと自身の無力さを「待っている」と、太宰は表現したのかもしれない。

 どうにかなってしまいそうだ。どうにかなってしまいたい。どうにでもなってしまえ。こんなどうでもいいものは。
 そんなどうしようもなく可愛くて愛する自分自身や世間を、わざと軽んじて、おどけてみる。

 私が太宰治作品全般に感じるのはそんな裏返しのナルシシズムだ。

 自劇団の公演が先週末9月15日~17日までありました。
 劇場公演は全ステージ満々席となり、ご来場いただいた皆様、誠にありがとうございました!

 劇場公演は終了しましたが、配信アーカイブ販売を引き続きおこなっています。ご好評を受けまして完全受注生産DVDも発売決定です!

 日本文學を原作にした四つの短編集。今回の記事にした太宰治の「待つ」も原作にありますので、ご興味ある方は是非。

獣の仕業 The Out of Beast 2023
「改作・日本文學」

配信チケット購入

【配信での観劇購入(生配信+アーカイブ視聴)】

配信チケット:2,300円
配信+脚本データ付チケット:2,800円

  • 販売期間:7/28 20:00~10/16 23:59

  • 配信期間:9/17 17:00~10/17 23:59

  • 応援キャスト指定でのご予約をご希望の方は「備考」欄へのご記入をお願いいたします

DVD予約注文【完全受注生産】

  • 注文予約期間:2023/09/17 20:00 〜 2023/10/31 23:59

  • 発送予定:2023年12月下旬 〜 2024年1月上旬

  • DVD限定特典:獣の仕業による全編副音声コメンタリー+PDF脚本

演目紹介

脚色・演出:立夏

「待つ」
作:小林龍二 原作:太宰治
出演:手塚優希 雑賀玲衣

待つ

「ごんぎつね」
作:きえる 原作:新美南吉
出演:きえる 小林龍二

ごんぎつね

「藪の中×歯車」
作:雑賀玲衣 原作:芥川龍之介
出演:小林龍二 手塚優希 雑賀玲衣

藪の中×歯車

「約束」
作:立夏 原作:夢野久作 演出補佐:小林龍二
出演:立夏

約束

スタッフ

  • 舞台監督:小林龍二

  • 照明プランニング:手塚優希

  • 音響プランニング:立夏

  • 撮影・配信:U-3

  • 衣装スタイリング:きえる

  • 写真撮影:加藤春日

  • 制作:手塚優希

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