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「Let It Be」

ビートルズのくれた夢のことを今日ここで話そうと思う

夢で星の空をくれたジョンは語りかけるようにして話す

ジョンの命が今日、私へ夢をこじあけさせた

ビートルズの話が長引くならばと

リンゴが角に仕立てた貝の皿の上に火鉢を用意し歌う

ジョン・レノンという言葉が長引く綱を引っこ抜き

ジョン・レノンという勇気が長引く炎をよろける

ビートルズが僕らの気持ちに歌を歌わせた日には

あの日に歌った舞踏が空をゆく

そして空へゆく愛にのまれれば

道路をあけれず死んでいった桟橋の声も

真っ二つに分けられし被害者となる

ジョージが下す理由の判決は

ごっそり自惚れる奴らがのみこんでしまう

だからポールがヒモに結んだ文字は

ずっとビートルズのままなんだ

日本に来てまだ三ヶ月しか経っていなかった

アメリカへ戻って演奏をし、まだ五ヶ月しかなかった

ジョージが棒のようにした口笛の音は

弾むばかりか歌えないんだ

エルビスが枕の木にしたらいいと

僕らの部屋に遊びに来たことが

胸の内側までおりてきて悲しくなるんだと

ポールとリンゴが釣りをしながら

家へ戻ろうとしていた

ジョンが背中に背負っていた傷みは

どこからも逃れられなかったものだろうか

リンゴが作るベテラン職人のような太鼓を打つ

ポールの腕前は、ジョンのしたたった涙を

より深くまでうならせるものであった

交互に打ちつける傷みにも

ビートルズの結ばれし文字には

一つの安心も不安もなかったろう

僕らの理由に反する形で

解散した ヒモではない

ビニール製品のエルビスの文字と

化けられず泣いて泣いた五頭のカモシカは

ピアノに歌われるように

私たちにまで歌を要求していた

かつて腕に刻まれた

愛するという アイヌの伝承づたいの

夢ばかりの山々は麓に

死す人々へ 愛情の夜を

まとめて のませようと頑張った

その山々の脇には抱えられながら

世話をしてきた人間たちの恐ろしいばかりの

群青色が追いかけ回そうと暴れている

ビートルズの浮いた解散なんて

今日の桃の木や梅の木や葉の刻まれた

黄色い沢庵も夜の間の時間に

解散を人差し指に切り刻む

ジョンとジョージの二人の夜の日

ポールとジョージの三人の夜の朝

ビートルズの前例の二個手間だった

エルビスのコンサートに出ることになった

ジョージだけがまだ姿を見せていない

リンゴのステージに上がる予定のジョンだけが

まだスタジオで練習をしている

アビー・ロードの夜、長き夜

ひとり スタジオの音の練習をしているポール

既存の製品が売られゆく時代

ジョージがスタジオへゆく話をしている前に

エルビスが衣装ケースに隠れたということは

またしても どこからともなく

ひと騒ぎまで発展していった

クローンの育ちの早くなる時刻

ポールはわざと羽のペンで

ピアノの横に立った

リンゴが不満をあげた夜であった

ジョージがひとりで眠りたくないと泣いた日だった

ジョンが外へ出てゆく冬の日のことだった

そろうことのあった四人

そろうことで分け合えたはずの四人

エルビスの作ったイスにだけ

鳥が宿っているらしい

どこから聴いていたか知らぬ人々の中で

ビートルズの歌は時々流されていた

暗黙の支度だけ済ませた

アメリカ、ニューヨークの広場には

ディランの朗読により

乾燥させられた日光が

元気をとりもどしていたようだった

ジョンが泣くまでの事件が

恐ろしく日に日に近づいてゆくのなら

ジョージがリンゴの家へ遊びにゆく

一週間前には灯りがぐらついていたろう

レースのエルビスという曲は

世界の地理をカモシカの群れの中へと

押し込ませたまま かっこう悪さだけを

つまみ出させた

人間のすることであれば

要求や欲になど雨が

歌うように欠かせた日がくる

広場の夜が、とってもおだやかであった

ディランの詩が文字化けという名のついた曲が

声を拾えない者へと向いたときに

悲しいはずの笑顔の群れが

馬の調教を許す日であれ

一番深くまで映るスクリーンが

この空の中に生きているというのならば

チャップリンの踊ったスクリーンが

間もなくピアノの横に立ったままの

ポールに指笛をして

生地を縫わせることであれ

染みついた歌だけを洗い歌う人間が

弁当の箱に群がるひみつを

ジョンだけの目にうつる日

歩いた青と歩いた空の中間で

ポールは続いているビートルズの歌の練習に

汗を流しているだろう

それともジョージが炎を買ったうわさが

消えずに歩いてくるだろう

友人にと宛てたレターパックを

盗みにやってくる家のことは

明日にも灯篭として川へ寄せ集められる

たった今、10万個の人間が

額に挟まり死ねば

心に声に傷みが分散されるのだろうか

トーン記号ごとき腹を立てた

各界の名プロデューサーが

居ても立ってもいられずに

ポールによってたかった15年前

あの時は、リンゴがまだ1人の朝が

信号によって熱を出していると泣いていた日だった

ジョンが暮らす町にビートルズが走ってきたいと

プロデューサーへたのめば

ディランが たいまつブルーの夜を過ごす

ジョージがかくまった

ジャクソン5のレコードの裏は

まだ日の長い夜の忍者だけいる

帰国が早まったんだと

電話をくれたジョンが

先に立ったエルビスの家のとなりのステージ場が

次の日に舞踏家として踊る

土方巽に代えてほしいと

呼んだことに、足の先の噴火が

日本の形を木々へ向かわせる

そろばんに通ったことのあった

リンゴがそこまでなまりのなかったポールへ

指輪の箱を作ってもらったのは

また ビートルズを歌いたかっただけかもしれない

カモシカの愛情が、立ち眩むようにして

入っていったトンネルに眠るエルビスは

歌のこと 曲のこと

あまり見たことのなかった日本のこと

TVの中で立っていた自分の姿

アメリカの流れ去られた夢を

50段階も飛ばし弾くジョンとジョージのギターへ

今朝届いたエアメールが

マンドリンの歌にしてくれと頼む

飛行場がドアノブに下げられた

首と首が

人間と人間が

まざりまざる

まざったまざった

ひと呼吸だけ置いたビートルズの名前

いったん呼吸を止められし人間の場所

イスを机のように真四角に切った

ディランのハーモニカ

これがまだ残っているニューヨークの町に

新しくなれることを意味する

ベルリンのポルノ映画を開花させることだろう

高いところに低いところに

アンテナに空間の技に職

どこまでも許すことのないものだろう

命の危険が迫る私の胸に

遅くなる私の届ける声によって

ディランの詩とハーモニカで踊ろうとする肌まで


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