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新作映画2024

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2024年の新作ベスト選考に関わる作品をまとめています。新作の定義は、今年も2022/2023/2024年製作の作品で自分が未見の作品です。
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#フランス

カンタン・デュピュー『Daaaaaali!』幼稚なダリがいっぱい

カンタン・デュピュー長編12作目。一昨年から1年に2本というホン・サンスみたいなペースで作品を撮りまくっており、昨年は『Yannick』をロカルノ映画祭で上映した数週間後にヴェネツィア映画祭で本作品を発表している。冒頭からダリの絵画"Necrophilic Fountain Flowing from a Grand Piano"、ピアノとそこに開いた穴から水が流れ出る絵を雑に再現した画が登場する。ダリの描いた不条理空間が雑に実体化しているのだ。物語はジャーナリストのジュディッ

Virginie Verrier『Marinette』マリネット・ピションのサッカーへの想い

Virginie Verrier長編一作目。フランス史上最高の女性サッカー選手と呼ばれたマリネット・ピションの半生を描いた一作。彼女の30年間を90分にまとめたためにやや駆け足ではあるが、家族/サッカー/恋愛というエッセンスは過不足無く収まっている。飲んだくれで暴力的な父親、嫉妬からマリネットを虐めるチームメイトなど敵対的な人物も多くいるが、サッカーをすることに協力的な母親、学生時代に入っていた男子チームの監督、SMOの監督、フィラデルフィア・チャージのチームメイトなど好意的

ベルトラン・ボネロ『けもの』人類に向けたフォークト=カンプフ検査

傑作。2023年ヴェネツィア映画祭コンペ部門選出作品。ベルトラン・ボネロ長編10作目。一応の原作はヘンリー・ジェイムズ『密林の獣』。三つの異なる時代の同じ男女を描いている。主軸となるのはAIに支配された近未来で、人間の感情を消し去るためにDNAを浄化する手術を受けるガブリエルの物語である。彼女の意識は1910年(パリ洪水)、及び2014年(地震)という天災の年にいたガブリエルに飛び、その時代で毎回、運命付けられた相手ルイと邂逅を果たす。『パストライブス』より『パストライブス』

フィリップ・ガレル『ある人形使い一家の肖像』ガレル家子供世代の将来は如何に

2023年ベルリン映画祭コンペ部門選出作品。俳優になる10年前の1947年、フィリップ・ガレルの父モーリスは人形劇団に入団し活動していた。1950年にはクロード=アンドレ・メッサン、アラン・ルコワンと共に"Compagnie des Trois"を創設し、各地を公演して回った。本作品はそんなモーリスの経験を基にしているようだ。本作品に登場する劇団は家族経営であり、若い三人はフィリップ・ガレルの子供たち(ルイ、エステル、レナ)が演じている他、フィリップ自身ともいえる彼らの父親シ

ピエール・クルトン『A Prince』ある青年と不可視の王子

ピエール・クルトン長編二作目。16歳の青年ピエール=ジョセフ(PJ)は庭師になるために養成所に入る。そこで彼は、所長のフランソワーズ、植物学講師アルベルト、新しい雇い主アドリアンといった人々に出会う。PJの両親、銃鍛冶兼猟師の父と剥製師の母は仲が悪く、その影響を受けたPJは内向的な性格に育っていた。そして様々な人々との出会いを通して、PJの心は彼の父親的存在への憧れとそれでいて"父親"への憧れのなさの間で揺れ動き続け、セクシュアリティとアイデンティティを模索し続ける(なんの躊

フレデリック・ワイズマン『A Couple』レフ・トルストイの夕食を作ったのは誰か?

2022年ヴェネツィア映画祭コンペ部門選出作品。フレデリック・ワイズマンの数少ない劇映画。物語はレフ・トルストイの妻ソフィア・トルストイの独白のみで構成されている。主演のナタリー・ブトゥフとは2012年にエミリー・ディキンソンについての舞台『The Belle of Amherst』を上演してからの仲であり、本作品の企画は共同製作者でもあるブトゥフの方から「ソフィア・トルストイの日記」を見せたことで始まったらしい。この日記というのが、結婚してから同じ家で暮らしているのに二人共