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はんぶんこ。

僕と彼女は気持ち悪いくらいに似ている。それでいてあり得ないくらいに正反対の部分を持っている。次話す言葉が分かったり、流してもいない曲の同じ部分を歌い始めたり、ふと口から同時に溢れる言葉が一語一句間違わずに同じだったりする。かと思えば僕は物事をすぐに分解して深く考えたがるのに対し、彼女は見たまま感じたままの直感タイプ。

そんな風な僕らだからたまに意見が合わない時もある。何かを半分こしようとすると、彼女は"え、別に要らない"なんて冷たい事をたまに言う。しかし彼女は本当に別に要らないのだ。意地悪をしているわけではない。僕は同じ物を半分こして食べたり、飲んだりする事で感想や感覚を共有したくて提案するのだが、しばしば彼女にバッサリと断られる。そんな時は"お、今は気分じゃねぇか"程度に思っている。別に悲しくない。いや、別に悲しくなんかない!!

ね、ピアス開けよっか

飲みに出たついでにドンキホーテで買い物をしていた時の事だ。彼女が急にピアスを開ける事を提案してきた。なんだかそれが嬉しくて僕はついいつもの癖で深く考える。"耳たぶやそこらじゃすぐに塞がっちゃうし、苦労して開けた感じがあるのはやっぱり軟骨かな?塞がりにくいし"彼女は顔色ひとつ変えず"おっけー"と14Gの軟骨用ピアッサーを2つ、よく選びもせずカゴへ入れた。実際に開けたのは次の日の夕方になってからだった。

同じ場所に同じ傷

彼女の行動は本当に読めない。本当に良く見て細心の注意を払っていなければきっと僕は彼女の家であっても迷子になる。であるからしてこの時も彼女は唐突だった。"開けますか!"何に対してなのかは分からないが彼女は気合十分の面持ちでピアッサーを取り出した。箱を見るなり顔色を変えて"え…太くない?これ"そりゃそうだ。14Gだもの。耳たぶに開ける18Gや16Gより更に一段階上の太さだもん…。

いざピアッシング、とその前に開ける場所にマーキング。机の上に置いてあったペンで左の耳の軟骨の上、同じ場所に印を付けた。耳をよく消毒してピアッサーを取り出し、耳にあてがう。彼女が少し震えた。"お願いだから痛くしないで!"無理な相談だ。皮膚だけならまだしも、骨を貫通するのだ。軟骨と言えど多少の痛みは伴うに決まっている。かなり力を入れて強張る彼女は嵐の晩に震えるシマリスの様だった。

"ガチンッ"白いプラスチックで出来たそれは彼女の左耳の軟骨に穴を穿った。しかし射出されたピアスは神様のイタズラかキャッチ側の皮膚を貫ききれていなかった。軽くパニックの彼女、その最後の一息を押し込もうとする僕。半ベソを描いている彼女。それに続いて僕もピアッシングした。そんなこんなで無事2人ともピアスの穴を開けることができた。

左耳の鈍痛は同じ痛み

左耳を下にして寝ようとして走った鈍い痛みでピアスを開けたばかりだった事を思い出す。まどろみの入り口でじんわりと幸せが滲むのを感じた。"あぁ僕らは今、同じ位置に同じ痛みと傷を抱えて生きているんだ"

本来分け合う事の出来ない痛みや傷をわざわざ2人で半分こしたのだ。こんなに大切で愛おしい痛みや傷はそう多くない。この傷が安定したら、次はお揃いのピアスを2人で付ける事を約束した。

場面は変わってまたある日。彼女の好きなマカダミアナッツのアイスクリームを僕が1人で食べていた。せっかく彼女も起きているので性懲りも無く僕は聞く。"半分、どう?"彼女はスマホの画面を見つめたまま"んー。別に要らない"

もう悲しくなんかなかった。
僕らは同じ痛みを傷を、同じ位置に感じられる。痛みが消えても、その場所に同じピアスが光る。
まだたまに痛むピアスをわざと弄って鈍い痛みを思い出す。

"ねぇ、付け替えるの早いかな?"
彼女も左耳を弄りながら笑った。


今日はここまで。
また与太話をいつか。
んじゃまた!!

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