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心底に隠された影の感情はエンターテイメントで生きる-【舞台】ZERO TOPIA

誰だって自分の心の痛みには触れたくないし触れられたくない。それも人に言えないような奥底に眠る深い悲しみは本来であれば隠されるべき感情。

もし心の奥底をさらけ出すきっかけがあったら、私は苦しみを受け止め、憎しみや怒りの矛先を秘め、許すことができるのだろうか。


先日、東京・赤坂にある赤坂ACTシアターで観劇した岸谷五朗さん、寺脇康文さんが主宰する演劇ユニット、地球ゴージャスプロデュース公演 Vol.15 『ZERO TOPIA』

今日のnoteでは全力のエンターテイメントを魅せながら「生」というテーマに向き合う舞台『ZERO TOPIA』の観劇レビューを書きました。(※ネタバレあり)

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豪華客船から遭難し、とある島にたどり着く者たち。

流れ着いた島は、地図にも載っていない色彩のない島——ZERO TOPIA。

過去を背負った”島に流れ着いた者たち”がお互いの「痛み」を知ったとき、その闇に密かに近づいていく者たちが動き出す。

なぜ、彼らは集められたのか。

色彩のない島-ZERO TOPIAの向かう先はユートピア(理想郷)か、あるいはディストピア(地獄郷)か。彼らの下した決断は———。


悲しみ、憎しみ、怒り…すべてを身体表現で魅せる

開幕と同時にステージ後方から登場するのはロマンを演じる西川貴教さん。破壊的に力強く「Dynamic Dynamite Extreme」を歌い上げ、その火力(歌声)が凄まじく、冒頭から熱量あるパフォーマンスで観客を舞台の世界へ引き込み物語は始まります。

一幕は豪華客船に乗っていたはずの8人の登場人物たちが、遭難し流れ着いた全く知らない場所でお互いのことを全く知らない者同士心を通わせながら、この物語のキーとなるそれぞれの「心の闇」に触れていく場面。

序盤はコメディ要素溢れる芝居とコントみたいなやり取りが続くので肩の力を抜いて見られるところ。今回舞台では初めて拝見する方々ばかりな上に、作品自体も観てから知る部分が大半でした。だからどんな風に物語が進んでいくんだろうと思っていたのですが、最初に見せられたのがあらゆる分野で活躍するエンターテイナーのコントだったのである意味拍子抜け(笑)

でもわかりやすい鉄板のお笑いネタで観客のツボを押さえていたし、出る人出る人ボケを重ねて笑いを誘う場面満載でとても気軽に楽しめました。

また一幕後半から二幕へそれぞれの心の奥底に潜むものが浮き彫りになっていく過程では、むき出しになった感情を表す術として歌やダンスといったパフォーマンスで観客の視線をステージへと集中させます。

過去の「辛さ」は「苦しみ」になり「憎しみ」へと成長し、「怒り」へと変化する

公式パンフレットにあるフレーズのように、それぞれの過去を探っていくシーンではそれぞれの悲しみが深くグッと引き込まれるポイントでもあります。でも、それ故観ているのが辛い登場人物の過去。不倫・いじめ・戦争などの地球上にある社会問題に触れ、様々な角度からの影の部分を一人、一人のキャストが体現していました。

アトラス(新田真剣佑)の真っ直ぐな性格が自身の過ちに気付かずに特殊工作員としてテロに加担してしまっていたところやサンディー(Wキャスト花澤香菜・宮澤佐江)が肌を隠した服装で生きなければならない理由など過ぎた今ではどうしようもできないもどかしさを感じながら観るパフォーマンスは目を奪われ、耳を奪われ、引き込まれました。


柚希さんのインタビューによると、岸谷さんは「稽古場は恥をかく場所だ」とおっしゃっていて、稽古中はキャスト陣が互いに意見を言い合いながら全てをさらけ出しながら行っていたそうです。その稽古の時間が全身全霊の表現を作っていたんだと感じます。

苦悩の叫びやダンスや歌や・・・悲しみが最終的に怒りへと変わったときの登場人物それぞれが表現する怒りのエネルギーは舞台上を突き抜け観客席まで及んでいたと思うほど。

だから今回の作品は、一幕が75分、二幕が85分で一般的な舞台よりもボリュームがあり、観客側も体力のいる舞台にも関わらず失速感もなく見続けられていたのだと思います。ステージに立つ人も気持ちを高めたまま最後まで挑めるのは本当に凄い。


一言で表すと「混沌と感情が生み出す激烈エンターテイメント」

とはいえ、これはエンターテイメント作品です。そして舞台作品。

キャスト陣が役者、ミュージカル、歌手、声優、ダンスと生業にしている場所がバラバラで一見混沌そのものなんですが、自分の持ち味を生かした見せ場がそれぞれあってエンターテイメントを集結した作品になっていたし、目で楽しませて、耳で楽しませる舞台ならではの部分も感じられたのが良かったです。


岸谷さんや寺脇さんの劇中での場の和ませ方、笑わせ方はさすがで、なんか岸谷さんが出るところ全部笑ってしまいそうだったし、柚希さんは華麗なヒロインで美しく、終盤でアトラス役の新田さんが柚希さんを背後に守りながら戦うところがベストショットでした。写真に収めたい美しさ!そんな新田さんは若手俳優としての活躍ぶりを映像では何度も拝見してるしイケメンなのも知っていたんですが、肉眼で見ても一寸の狂いなくイケメンでびっくりしました。人を目の前にしてイケメン濃度が高すぎると思ったのはこの日が初めてです。いつでも・どこでも・かっこいい。気絶してもかっこいい。凄い。

花澤香菜さんは大好きな声優さんで声は何度も聞いています。天性の天使声。透き通った耳馴染みの好い声。それでいて演技も可愛らしくて、可愛いのは声だけじゃなかった…知ってましたが!服を脱ぎ捨てて苦しみに立ち向かうサンディーの裏の顔も狂気に満ちていて好きでした。宮澤佐江さんが演じるサンディーはまた違った顔なんだろうと思うと、やっぱりWキャストは両方観たくなります。

西川さんは恥ずかしがり屋な愛らしいキャラのロマンも怒りで爆発したロマンのどちらも合っていて、歌唱力はずば抜けているし、服で隠されたギャップの根源に劇中イチ笑ってしまったかもしれません。圧倒的すぎると笑えてくる現象がでてしまいました。筋肉と歌の西川さんでした。

また「清く、正しく、美しく」と異名(?)が次々と加算されていく存在感抜群の清子役の原田さんや、ダンスパフォーマンスで役の心の内を見せた藤林さんや大村さんも個性が際立っていて。8人全員が激烈さと全員が同じくらいの熱量を保っているからバランスも丁度いいところを保てているのだと感じました。


『ZERO TOPIA』は4月9日にスタートを切ったばかり。東京公演は5月22日まで上演、その後は愛知、新潟、福岡、広島、大阪と全国を回るロングラン公演。東京公演、地方公演と席が確保できる回がいくつかあるので(4/24 現在)気になる方はまだ観に行けますよ!ということだけはお伝えします!

ダイワハウスSpecial 地球ゴージャスプロデュース公演Vol.15「ZEROTOPIA」【作・演出】岸谷五朗【出演】柚希礼音 西川貴教    新田真剣佑 宮澤佐江・花澤香菜(Wキャスト)    藤林美沙 原田 薫 大村俊介(SHUN)    水田航生 植原卓也       原田 治 小林由佳 中村百花 おごせいくこ 丹羽麻由美    碓井菜央 加藤真央 大曽根敬大 岩﨑浩太郎 田口恵那    堀部佑介 辻中 武 小南竜平 砂塚健斗 日向智法    咲良 大音智海 鈴木百花 高木勇次朗 酒井比那    鈴木さあや 杉山真梨佳 蛭薙ありさ     岸谷五朗 寺脇康文【上演時間】180分(一幕 75分 休憩 20分 二幕 85分)【公式サイト】http://www.chikyu-gorgeous.jp/vol_15/


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書いているうちに段々と筆圧が強くなっていました。…ツッコみたい気持ちありますね。すみません。筆圧というか、キーボードを打つ手に熱がこもるというか。

観劇直後は正直嵐のあとの静けさのような、勢いよく過ぎ去った!という気持ちと頭の中が整理できていない気持ちがあったので今日書いた感想ほどの感想はなかったんです。

それよりも前半の手の内を明かさないような謎に包まれた時点での演出のジレンマや、明から暗への急転換に戸惑いを感じながら観ていたし、上手く飲み込めないままライブの舞台でしか生み出せない熱をそのまま受け取った気持ちがありました。

でもパンフレット読みながら、自分の記憶を辿りながら書いていると、自分が直接観た舞台でのあの台詞やあのパフォーマンスが思い起こされて、それぞれの感情をじっくり知ることができたし、今になって余韻を楽しむことができています。

それにこの豪華キャスト。初見ではあっちこっちで観るのに忙しくて、全部を味わい尽くすのは難しいかもしれません。もっと言うとてんこもりな要素にWキャストというのもニクい!面白い作品に出会ったとき、経済的・時間的余裕があれば何度も観て、噛みしめて噛みしめて観たい。しかもこの日限りのライブ感が醍醐味の舞台だと、尚更。

今回も何だかちゃっかり褒めちぎった感想になってしまい、逆に胡散臭く思われたらどうしようと思いつつ、ホラは吹いていないからいいじゃない。と言い聞かせてのnoteアップです。

映画やドラマもそうですが、観た人・観ていない人にどんな風に伝えていけたらwin-winなのかは持てる頭を駆使しして考えているし、特に舞台はチケット代が決して安くない、むしろ高いし、何処ででも見られるわけではないので世間的認知度を上げるには時間がかかるだろうなあと思う。でも一度沼にハマってしまった身としては楽しめる余地が大きくなればいいなと思っています。

実際、ミュージカルブームは来ていると思うけどね!

文章でも何でも、良い形で伝わっていくといいなあ、本当に。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


ありがとうございます!