サービスの差別化を考えるときにまずやるべきこと

はじめに

この記事はService Design Advent Calendar 2017の19日目の記事です。
https://adventar.org/calendars/2419


このnoteの3行まとめ

・サービスの差別化を考えるにはアトリビュート分析が有効
・一点突破での差別化よりも複合的に否定的特性を消していくことが重要
・アトリビュート分析は"程度"の理解が肝


「アントレプレナーの戦略的思考技術」が面白かった

会社の書棚を漁っていたら面白そうな本が出てきたので読み始めてみたら、これがかなりためになるので記憶を定着させるためにnoteに書いてみようと思う。15年前に書かれた本だが、内容は現在でも色あせない普遍性を持った一冊だった。

・起業家的マインドセット
・新規事業のフレーム
・ビジネスチャンスの登録(ビジネスチャンスを捉えるためのテクニック)
・最善のビジネスに焦点を絞る
・適応型の事業推進

という構成で書かれているが、その中でも特に2の新規事業のフレームで触れられている「製品・サービスの再構築」と「製品・サービスの差別化」について書いていきたい。

アントレプレナーの戦略思考技術―不確実性をビジネスチャンスに変える 


競合との差別化が鍵となる状況

いきなり本の内容から脱線するが、大前提として差別化自体は戦略オプションの一つでしかないため、どんなときに必要になるのかが非常に重要になる。

「アントレプレナーの戦略思考技術」には差別化は必要となる前提で議論が展開されているが、ポーター先生によればコスト・リーダーシップがあれば差別性は必要がない。

画像引用元:http://value-design.net/wordpress/?p=230

 業界におけるトップランナーであれば規模の経済が働きコスト・リーダーシップ戦略を選択できるため差別性自体は積極的に考える必要がなく、逆に競合が生み出す差別性をいかに消すかという横綱相撲が求められる。(メルカリ・ヤフオクがCASHに敏感に反応し即時同質化サービスをリリースしたのが記憶に新しい)

裏を返せばスタートアップは必ずと言っていいほど既存のプレイヤーとの差別化を求められるポジションにいる。リーンキャンバスのど真ん中に「Unique Value Proposition」が鎮座していることに象徴されているとおり、独自の価値から既存企業・サービスとの明確な差を生み出さなければ、新しい事業は生まれない。(当たり前だが)

だた、困るのはこのUnique Value Propositionを考え出すこと自体が非常に難しいことだ。なんとなく自分が持つ事業案に関しての独自価値を書いてみても、上滑りをしている感じがする。まさにその点に関して「アントレプレナーの〜」では思考のフレームを提示してくれている。

 

アトリビュート分析で既存製品の特徴を分析する

マーケットイン型で事業開発を行うときには既存製品の分析が欠かせない。一般に製品は多数の特性を持っており、すべてを模倣することは後発の戦略上得策とはいえないし、逆に目立つ特徴だけに囚われてしまっても本質を見逃してしまう。

顧客が1つか2つの製品特性だけで購買の決断を下すことはまずあり得ない。そこには複雑な損得勘定が反映されているはずなので、顧客がどのような損得勘定をするのか、その根本的な要素をとらえて製品・サービスの設計に適用することが大切な仕事になる。

書中でも上記のようにサービス・製品と顧客ニーズの複雑系をいかにして理解するかが重要であるとされ、どこが顧客に支持されいているかを理解していくプロセスを辿る際のフレームワークがアトリビュート・マトリクスだとされている。 

画像出典:アントレプレナーの戦略思考技術p24

既存製品の特徴を分類していくわけだが、まずは肯定的特性から目を向けていく。

・あって当たり前
・ちょっと違う
・興奮する

のうち、あって当たり前特性は裏を返せばその特性がないと土俵に立つことができないというモノである。書中では初代iMac発売時にフロッピーディスクのドライブがないことでメディアからの批判に晒された例が挙げられている。

逆に、興奮する特性は顧客が喉から手が出るほど製品が欲しくなる特性を指すが、その特性は技術的に複雑なことから生み出されている場合よりも案外シンプルでコストの掛からないもので実現されていることも多いと指摘されている。 

反対に否定的特性にも段階があり、

・我慢できる
・文句を言いたい
・何だこれは

に分類されており、既存製品の否定的特性を見つけ出したときこそが、事業機会の発見であるとされている。「何だこれは」というレベルの特性を見つけ出せればそんなにハッピーなことはないが、成熟した日本市場においてはそういった状態が放置されている業界は極めて少なく、規制に守られている領域、公共サービス、農業など電子化の難度が高く極端にレガシーな市場にのみ残っているのが現状だろう。

だが、近年のスタートアップシーンを考えていくと必ずしもそのようなクリティカルな否定的特性とは言い難いレイヤーの差別化を行うことで既存プレイヤーを切り崩している例が目立つ。

例えばメルカリは、ヤフオクという絶対王者がいる中でも、①オークションという仕組みの落札者側の負担と②PCベースで設計されたサービスの出品の負担を軽減することで足元から切り崩していくことに成功した。

また、Cookpadの牙城であったレシピ領域に対し、kurashiruなどの動画系レシピメディアは①たくさんのレシピの中から欲しいものを選択する負担や②テキストから手順を読み解く負担を、厳選したレシピ動画という手段で解決している点が支持されていると考えられる。Facebook動画を利用した集客チャネル戦略はもちろんのことだが、チャネルはリーチ手段でしかなく本質的な価値があったからこそあそこまでの急成長を見せたと言える。

メルカリもkurashiruも既存サービスの「文句を言いたい」特性を突いているとは言い難いが多くのユーザーの支持を集めている。文字に起こしてしまえばほんの少しの差だが、ユーザーが求める基本的特性を満たした上で、ユーザーが潜在的に抱えているいくつかの「我慢できる」特性を解消することが、その事業ドメインのKFSとなった好例だと言える。


アトリビュート・マトリクスを検証する

定義はわかれども、どの特性をどこにマッピングしていくかは非常に頭を悩ませる問題である。ありがちなのは起業家の独断と偏見で既存製品を評価しそのとおりに機能開発をすすめてしまうパターンである。

結果的に肯定的差別化特性だと考えていた目玉の新機能は「だから何なの」「おまけなら欲しい」に甘んじてしまう。これは体力のない企業・新規事業部門にとって致命傷になりうる意思決定の誤りである。

ではどうすればいいのかというと、シンプルに言えば顧客に聞いていくことがリーンスタートアップ的正解であるが、その際の切り口として筆者は下記のようなポイントをあげている。

画像出典:アントレプレナーの戦略思考技術p38

近年の人間中心・顧客中心のパラダイム以前に書かれており、主語が自社と顧客のまぜこぜになっているため若干の違和感をはらむが、もし顧客インタビューに落とし込むとしたら以下のようになるのではないだろうか。

■肯定的特性の理解

①あなたはなぜAというサービスを利用しているのですか?(オープン・クエスチョンで想定外の特性を抽出する)
②AとBの違いはなんですか?(比較によって特性を想起させやすくする)
③その違いがなかったらABどちらを選びますか?(特性の程度を知る)
④Xという違いもありますがご存じですか?(差別要因の仮説を検証する)
⑤AにもBにもXという特徴がなくなったとしても、この製品を購入しますか?(コア・バリューか否かを知る)

■否定的特性の理解

①Aに対する不満はありますか?(オープン・クエスチョンで想定外の特性を抽出する)
②Bと比較してAに不満はありますか?(比較によって特性を想起させやすくする)
③その不満があるのにAを選んだ理由はなんですか?(特性の程度を知る)
④Yという不満を持つ方もいますがあなたはどう思いますか?(差別要因の仮説を検証する)
⑤その不満がBでは解消されていますがそれでもAを選びますか?(クリティカルなイシューか否かを知る)


その特性は「ちょっと違う」か「あって当たり前」かを理解する。この時に特性として挙がってこない時点で十中八九は「あって当たり前」に分類される。

顧客の口から挙がってきたとしても明確に違いを説明できるのか、その違いが購買に直接影響しているのか次第で、「ちょっと違う」か「あって当たり前」かは分かれてくると言える。

また、極端な話その特性がなくなってしまったとしても購入するのか?を理解することで「おまけなら欲しい」レベルなのかがわかる。

否定的特性であっても同様の考え方が適用できるだろう。それと、めったに無いとは思うが興奮する・何だこれはという次元の特性であれば、上記の質問の中で特に感情の発露をとともに語られるため自ずとわかるはずである。


思ったこと

調査してみてよくあるのが、「あって当たり前」と「我慢できる」だけが残るパターンである。その際のオプションとして提示されているのは、あって当たり前を競合よりも低コストでやりきるか、我慢できるを徹底的に潰していくことである。

ただ、こうしたシチュエーションであれば、体力のないスタートアップにとってはあまり魅力的な市場とは言えないかもしれない。

そうでない限りは、「あって当たり前」を最低限満たした上で、「ちょっと違う」を作り(≒競合の「文句を言いたい」を解消し)に行くことが、MVPの定義になるであろう。

結局のところ何が差を生み出すかは直感に頼らざるを得ない部分は出て来るが、こうした共通のフレームが有るだけでもチームでの議論が空中戦にならずに済むような気はする。


参考情報

京大のD-Schoolがアトリビュート・マトリクスのワークシートを共有していたので貼っておきます

http://kyoto.dschool.jp/2013/e-learning/attributemap/


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