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データを使うための前準備に時間かかるし、なんなら途中でめげる(データの整備課題)

 こんにちは。マーケティングの視点で読解力を高めるためのノートです。

 本連載では、「デジタル思考とデータドリブン・マーケティング」というテーマに焦点を当て、アナログとデジタルの判断の違いやデータの特性や活用上の課題、DXを推進するために必要な考え方やステップなど、ますます求められるファクトベースの変革について考えてみたいと思います。

 デジタルな意思決定やデジタル思考において、データは非常に重要な役割を果たしますが、単一や単独のデータだけでは、生活者の変化や市場の動向を正確に把握し、見通すことが難しいため、一方向からだけでなく、多方向から立体的かつ多面的に事象を捉える必要があります。

 しかし、複数のデータを用途や目的に応じて使える状態で用意することは容易なことではありません。データを使えるようにするための前準備には時間と費用がかかる困難な課題であり、着手してもその道中で挫折してしまうケースもよく見られます。

 このような状況を踏まえ、今回はデジタル思考で適切なアクションを選び取るために不可欠なデータの整備に焦点を当て、言うは易しでも、行うは難しい、DX推進時の課題を明らかにします。


1.データ取得にお金かかる

 自社のPOSデータや自社のオウンドメディアへのアクセス状況など、比較的ローコストで取得できるデータだけでなく、取引先やデータホルダからのデータ調達は高コストになることがあります。

 たとえば、お客様の動向を把握するためにマーケティングリサーチの会社から自社取扱商品のPOSデータを購入するだけでも、年間数百万円の負担が必要になります。

 また、過去の購買履歴だけでは家庭の食卓に上ったメニューを知ることが難しいため、日々の食卓情報を記録して報告する協力者を募ったリサーチパネルのデータを購入する場合、さらに数百万円の負担を覚悟する必要があります。

 さらに、WEBサイトの検索クエリやSNSでのキーワードやハッシュタグの推移、テレビ番組で取り上げられたメニューや商品、素材、など、現在のトレンドや興味を持たれているキーワードを活用するには、それぞれのデータを整備し、販売している企業と個別に契約することが必要であり、活用したいデータ種別ごとに調達費用がかかります。

 お客様の動向を理解するためには、ファネルの上流から下流までのデータの活用や、過去、現在、未来(予想や見通し)を行き来させる等、複層的で立体的な理解が必要です。しかし、一般的なメーカーのマーケティング部門が年間の予算として認められる金額を考慮すると、複数のデータを調達することは容易ではなく、なかなかの難題となることが理解できます。

2.データが貯まるまでに時間かかる

 データ調達コスト負担を乗り越え、複数のデータを収集した後でも、直ちに分析や活用ができるわけではありません。データを有効に利用するためには、一定期間にわたってデータを貯める必要があります。

 たとえば、前年との比較や伸長率、増減を確認する場合は、少なくとも前年同月のデータが必要になります。トレンドや趨勢を確認する際も、月単位、四半期単位、年間単位の推移を分析するには、一定期間のデータが蓄積されないと有益な分析結果を得ることができません。

 データ収集が始まってから分析や活用が可能な分量に到達するまでには、時間がかかるため、将来的にデータ起点のマーケティング活動に移行するための先行投資を覚悟する必要があります。これは実際に費用が先行してかかり、ただ現金が流出するだけの期間が続くことを意味します。この負担感から、データ整備を回避する企業も少なくありません。

3.尺度を合わせるための物差しが必要

 データはただ集めただけでは使えません。利活用するにはデータの「アクティベーション(価値化)」が必要です。これには、用途や目的に応じた「マスタ」の整備が欠かせず、その作業には大きなコストと労力がかかります。

 例えば、自社の商品が食品スーパーとドラッグストアで販売された件数を合算して評価分析する場合、両企業から入手したPOSデータ上の商品名称が異なるケースがあります(レシート名にブランド名がない、商品名が短縮されている)。これでは販売数量を正確に集計できないため、JANコードに正しい商品名を紐づけたリスト(商品マスタ)を用意し、JANコードを集計キーとすることで同一商品として集計する必要があります。

 また、競合メーカーの商品と比較分析するために、商品が属するカテゴリ分類を定めるとともに、同一カテゴリに属する他商品とも比較できるように、分析目的に応じてですが、競合メーカーの商品についても、JANコード、商品名、商品分類、内容量・サイズの情報を整備する必要があります。

 データを使いこなせる状態に変えるためには「用途目的に応じたマスタ整備」が不可欠です。店舗に関する比較や分析が必要な場合は「店舗マスタ」、WEBサイトやアプリについての分析が必要な場合は「WEBサイトマスタ」、CMやTV番組に関する評価が必要な場合は「CMマスタ」、SNSや検索クエリを利用する際は「テキストデータの有効語辞書マスタ」などが必要になります。

 マスタの整備は、「連続性」と「信頼性(品質)」の担保が重要であり、一度整備を始めたら中途半端な対応は許されません。また、整備する商品点数や管理するデータ項目が増えるにつれて、幾何級数的に作業量が増加するため、新たなデータを追加するかどうか検討する際、慎重な判断が求められます。

4.誰でも使えるようにするのに手がかかる

 複数のデータを蓄積し、物差しとなるマスタを整備した後に、最後の障壁となるのは用途や目的に応じたデータの集計や抽出です。

 集計分析用のデータ量が多く、対象データをダウンロードするだけでも、1日中かかってしまうシステムや、複雑なコマンドや命令文、関数を使わないと必要なデータにたどり着けない仕組みの場合、利活用する主体のデータリテラシーにもよりますが、一部の人間しか使いこなせず、デジタル思考を備えた人材の育成や、デジタル思考の取組みが日々実行される組織文化の定着と浸透から、離れていってしまします。

 このような状況を回避するためには、データリテラシーを問わず、全社員が事業のコンディションを一目で確認できるダッシュボード画面の提供や、TableauのようなBIツールを使い、複雑なコマンドやプログラムを使わずにプルダウンでアクションを選ぶだけで多面的な分析が可能なメニューの用意が必要になります。

 そのためには、データ分析のメニュー作りやBIツールへのデータセットなど、社内にデータエンジニアリングができる人材の採用と育成が不可欠です。このような人材確保視点からもデータ整備には困難が伴うことが理解できます。

5.データ整備課題の解決の方向性

 単一、単独データに留まらず、複数のデータを用意し、掛け合わせて利用することを念頭に置いた場合のデータ整備にする課題は、「データを使えるようにするための前準備に時間がかかる、お金かかる、途中でめげる」という点にあります。

 データ整備課題としては、調達コスト、利活用開始までのリードタイムの存在、アクティベーションにかかる手間や工数、利活用の環境を用意するためのエンジニアリングスキルや人材等の諸問題が横たわっています。

 データ起点のマーケティングや事業活動へシフトするために、データ活用上のボトルネックを回避、解消するには、一部の組織による限定的な課題解決に留まらず、部門横断的な「仕組み」と全社的に社員のマインド変えるための「仕掛け」が必要になります。

 このような仕組みと仕掛けについては、DX推進のポイントとして、別のパートでご紹介いたします。

 次回は、データを使える状態にするための前準備や工程を経て、利活用できる状態なった後の、データ活用課題について考えてみたいと思います。

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