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《馬鹿話 732》 世間知らず

「バレンタインや節分なんて、みんなが振り回されているだけだから、賢いみなさんはそんなものは止めておきましょうね」と担任の先生が優しく言った。

「先生、それは困ります」といつもは余り発言しない美穂さんが手を上げた。

「どうして?」と先生は美穂さんに尋ねた。

「私の家は、チョコレートを作っています。バレンタインが無くなるとお父さんが困ります」と美穂さんは言った。

「でもね、美穂さん。バレンタインなんて誰かが言い出した偽物よ」と先生は言った。

美穂さんが困った顔をして俯くと、「先生、節分の太巻きが無くなると、父ちゃんが困るから、失くさないでください」と寿司屋の歩くんが言った。

「そうね、太巻き寿司も偽物なんだけどなぁ」と先生は溜息をついた。

「偽物でも何でもいいから、商売の邪魔はしないで欲しいの」と美穂さんは先生に訴えた。

今度は歩くんが「先生は、偽物はだめと言っているけど、じゃあ何が本物なの?」と先生に尋ねた。

「みんなの為に一生懸命働いているお父さんやお母さんが本物よ」と先生は言った。

すると今まで黙っていた奈央さんが手を上げて、「先生、私のパパは何にもしていないけど偽物?」と尋ねた。

「お父さんは、何をされているの?」と先生が奈央さんに尋ねた。

「パパは、お爺さんから譲って貰った財産を使っているだけ」と奈央は答えた。


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