見出し画像

《馬鹿話 729》 趣味

正月の二日と云えば、もうやる事はあれしかない。子供達が寝静まった後、金造は女房の桂子の耳元で囁いた。

「さあ、始めようか?」

金造と桂子はお互い再婚同士で、今年の正月が初めて二人で迎える正月だった。桂子は二人の子供を連れていたが、金造は快く子供達を向かい入れた。そんな二人が出会ったのは、二人の趣味が同じだったからだ。

「始めようって、こんな夜中に何を?」と桂子は金造に尋ねた。

金造は桂子の言葉に首を傾げると「男と女が夜中に始めるのは、あれしかないだろう」と言った。

「あれって?」と桂子は焦らすように言った。

「あれはあれだ」とぶっきらぼうに金造は答えた。金造は桂子が何の事か分かっていて、揶揄っていると思ったからだ。

「兎に角、始めよう」と金造は言った。

桂子は実際何の事なのか分からないまま、金造の女房になったのだから、これからは金造のやりたい事に従う事にした。

「何でも最初が肝心なんだ。今日は一年の最初だからな。手加減しないで可愛がってやる」と金造は少し興奮して言った。

桂子は金造のやりたい事が何のか、分かり始めた気がした。

「じゃあ何時もは手抜きだったってこと」と桂子は鎌を掛けて見た。

金造は布団の上に正座すると、桂子の顔をじっと見つめて「当たり前だろう、今日は真剣勝負だ」と言った。

「さあ、そこに座って」と金造は桂子にも布団の上に向かい合って座るように促した。

「今日は玉を使ってもいいぞ」と金造は言った。

そして、将棋盤を取り出すと、二人の間に置いた。

桂子は玉の駒を手に取ると、それを優しく撫ぜた。

「さあ今日は仕事もないから、朝までやろう」と金造は言った。

桂子は心の中で「やっぱり趣味が一緒の人と結婚して良かった」と思った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?