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《馬鹿話 720》 仕方ないじゃないの

「人類は何処に向かっているのかしら」と美紀はベッドの中で呟いた。

「ねえ、何処に向かっていると思う?」と美紀は優作に尋ねた。

「あっちかな」と優作は退屈そうに言うと、「あっちって、どっち」と美紀がしつこく訊いて来た。

「俺が住めない世界」と優作は答え、煙草に火を点けた。

煙草が世の中から消えて、もう二年が経とうとしていた。

「この煙草は密輸ものだが、昔は堂々と吸えたものだ」と優作は言った。

「次は、アルコールらしいわね。アメリカも前に失敗したから、今度は本気でやるみたい」と美紀が言った。

優作はベッドに仰向けになると、空中に煙で輪を描いて遊んだ。

「何もかも禁止にして、さぞ皆さんは長生きがしたいんでしょうね」と美紀は皮肉を言った。

「そうだな、売春宿や覚醒剤だって、日本ではつい六十年前までは合法だったんだからな」と優作が言った。

優作は、ベッドから起き上がると、「まあ、堕落するやつはこの世から去れって言うこと」と吐き捨てると、冷蔵庫にビールを取りに向かった。

「煙草はダメ、お酒はダメ、ギャンブルもダメって、いったい残っているのは何?」と美紀が言った。

優作は缶ビールを二本持ってベッドに戻ると、一本を美紀に渡しながら「仕方ないじゃないの、みんな良い人を目指しているんだから」と言って笑った。

「それより、あれでもするか?」と優作は美紀に尋ねた。

「そうね、久しぶりにしようか?」と美紀は答えた。

優作はベッドの上にあぐらをかくと、美紀に「隠してある?」と尋ねた。

美紀は、ベッドの横のテーブルに付いている引き出しを開けると、綺麗に並べられた下着の下に手を入れて小さな箱を取り出した。

「こんなものまで禁止にするとは、日本はどうなっちまうんだ」と優作は美紀から箱を受け取りながら言った。

「私まだ準備ができていないから」と美紀は言って、髪の毛を後ろで束ねた。

「じゃあ、俺からな」と優作はベッドの上に、カードを配り始めた。

一通りカードを配り終わると、「トランプ禁止なんて、誰が言い出したんだ」と優作が呟いた。

美紀もベッドの上にあぐらをかいて座り込むと、「きっと、トランプが嫌いな人達じゃない」と言った。

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