《馬鹿話 731》 危険な女
「おい、あの女だけには手を出すな。あの女は危険だ」とボスが言った。
他の連中は「わかりました」と直ぐに諦めたが俺は違う。
見るところ、ボスの女でもなさそうだし「いったいあの女のどこが危険なんです?」と俺はボスに逆らって言ってみた。
ボスは俺の顔をまじまじと見つめ「いいから、俺が駄目だと云ったら駄目だ」と云い捨てた。
そう云われると余計に気になるのが俺の性格だ。
俺は女に「おい、お前のことをボスが危険な女だと云っていたが、本当にお前は危険な女なのか?」と声を掛けてみた。
すると女は「私を怒らすとね」と云った。
「じゃあ、お前を怒らせなかったらいいんだな」と俺は言った。
女は「まあね。それができるのなら」と答えた。
それから俺と女は付き合い始めた。
噂と云うものは、直ぐに広がるものだ。
案の定、俺はボスに呼び出された。
「おい、お前。俺があれ程あの女に手を出すなと云ったのに、手を出したそうじゃないか?」とボスはどこか冷たい口調で俺に云った。
俺はボスの言葉にいつもと違う凄みを感じた。
「すみませんでした。あの女とはきっぱり別れますのでお許しください」と俺はボスに哀願した。
ボスは俺に背を向けて「もう遅いよ」と一言云った。
それからだ、俺は女を怒らすと何が起こるのかと、毎日女に怯えている。
「あんた、今日は遅かったじゃない。私と別れたいなんて思ったら、ただじゃおかないからね」と女は今日も俺に云った。
俺はもうそろそろ限界を感じ始めている。
女を怒らせてもいいから、女と別れることを真剣に考えている。
そこで、俺は恥を忍んでもう一度ボスに相談することにした。
「ボス。あの女と別れてもいいでしょうか?」と俺が訊くと、ボスは「駄目だ。あの女を怒らせると、お前も俺も皆があの世行きだ。だからあの女に手を出すなと云っただろう」と云った。
俺は改めてボスに「あの女はいったい誰なんですか?」と尋ねた。
するとボスが云った。
「あの方が天照大神さんだよ」
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