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瀬戸内国際芸術祭は、ただのお祭りではないと言いたくて

最近、瀬戸内の島々に行くことが増えました。岡山に引っ越してきた意味が少しずつ目に見えてきて嬉しいです。

何度も島に渡っているのは、もうすぐ開催される瀬戸内国際芸術祭2022にかかわる機会をいただいたから。(「具体的に何してんの?」と思っていただいた方は個人的にご連絡ください…!)

知れば知るほど、行けば行くほど、楽しみな気持ちが募っている今。公式サイトや制作発表会等よりはなんとなく噛み砕きながら、瀬戸内国際芸術祭のことをお話しさせてください。

そしてぜひ、来てほしいのです。感染症などさまざま気を付ける点はありますが、アートはもちろん島の美しさ、その背景にある歴史をリアルの場で感じてほしい。個人の見解も挟みつつ、今伝えたいことをつらつらと書いてみようと思います。


瀬戸内国際芸術祭2022とは

2022年の春・夏・秋に約1ヶ月間ずつ開催されます。瀬戸内海に浮かぶ12の島2つの港周辺で、現代アートを中心とした作品が楽しめる芸術祭です。

春会期:4月14日(木)~5月18日(水)
夏会期:8月5日(金)~9月4日(日)
秋会期:9月29日(木)~11月6日(日)

3年に1度開催される瀬戸内国際芸術祭(通称、瀬戸芸)は、今回で5回目。地域とかかわりながら開催している日本の芸術祭のなかでも規模が大きく、界隈的には“ロールモデル”ともいえる芸術祭です。


“芸術祭”と聞いて身構えそうな方がいたら、もう少し読み進めてほしいです。「こんなところに?」とつい言ってしまうような屋外作品や、空き家を活用した作品が多いので、アート作品でないものもアートに見えてくるおもしろい現象が起きていきます。

女木島

島の暮らしのなかに作品があるからか、物理的にも心理的にも近くに感じるというか、妙なリアルさを感じるのが私個人の感想です。


なぜ、瀬戸内の島々で開催しているのか

さて、瀬戸内の島々で開催しているのには理由があります。それは「島のおじいちゃん・おばあちゃんの笑顔を取り戻すため」。島に希望を生み出すような場にしよう、と思いながら毎回開催しているそうです。

“取り戻す”と言っているということは、なくなりかけた歴史があります。

フェリーから見える景色

ここから少しだから先の話を。

瀬戸内の島々は、日本の歴史が始まったときからずっと文化や資源の通り道でした。“ものを船で運ぶ”ことをイメージしたらわかりやすいかもしれませんが、海外から長旅を経てやっとの思いで日本にたどり着いた人たちが、もののやりとりをしたり一旦休憩をしたり、船のメンテナンスをしたりしていたのが瀬戸内の島々だったそうです。

もちろん、人と人との交流も盛んな地でした。今は人口減少が課題になっていますが、かつてものすごく活気づいていたのです。


笑顔がなくなるようなできごとは、そのあとの話。近代化が進むにつれて、活気は失われていきます。

船の技術開発が進み、休憩しなくても一気にものを運べるようになりました。また空路という手段もできて、そもそも船を使う機会が減りました。瀬戸内海の島々に人が立ち寄る理由が、なくなっていったのです。

それだけではなく、徐々に政府から見放されていった歴史もあります。

産業廃棄物が不法投棄されていた島や“ハンセン病”という感染症の患者さんが隔離されていた島、精錬所が設立されて環境上の問題を抱えるのに余儀なくされた島など、数々の社会課題とともに生きてきた場所なんです。

島に住む人びとから明るい表情が少なくなったのは、このような背景があるからでした。

瀬戸芸は、島々にかつての活気を取り戻そうとしています。アーティストが作品を持ってきて設置しているのではなくて、島の人たちと一緒に手がけた作品がいくつもあります。地元の人びととのかかわりをすごく大切にしているのが、瀬戸芸ならでは魅力です。


初心者でも楽しめる!瀬戸芸ならではの現代アート

与島にある作品(春会期のみ)

そして瀬戸芸の作品の特徴は、ほとんどの作品において瀬戸内海やそれぞれの島の歴史・文化を投影しているということ。作品を通して、瀬戸内の美しい自然環境も、悲しい過去も感じる機会になります。


「アートが好きです」と話すと、「どう見ればいいのかわからないんだよね」と言われた経験が多いのですが……。

「“なんじゃこりゃ”をそのまま楽しめばいいんですよ」と伝えることもありつつ、瀬戸芸については作品ごとのコンセプトが比較的わかりやすいんじゃないかな、と思います。

「なんじゃこりゃ…」と思って思考が停止するのが苦手な方でも、楽しめる要素があります。ぜひ先入観なくお越しいただけるとうれしいです。

とはいえ、アートの見方に正解はありません。感じたことをまずは大切にしてみてください。一応の解釈はあるよ、でもそれは絶対の解釈ではなくて一部の解釈でしかないよ、とお伝えしたいと思っています。


とにかく、超フリーダムな現代アートよりはとっつきやすいはず。よかったら確かめに来てくださいね。

ちなみに「自由に島を巡るのはハードルが高い」「効率よく作品を観たい」「解説があるなら、聞きながら楽しみたい」と思うような方がいたら、オフィシャルツアーに参加するのもおすすめ。1日で結構巡るのでタイトスケジュールですが、絶対楽しいです。


島へ行くときの注意点

こんなに地域と密接にかかわっている芸術祭自体、日本では結構珍しいので、3年に1度の貴重な機会にぜひ瀬戸内の島々へ来てほしいなって思っています。

ただ、いくつか注意していただきたいことがあるのでお伝えしますね。

①話し声

島にはもちろん、暮らしている方々がいます。私たちにとっては非日常でも、島民にとっては日常です。お昼寝をしているおじいちゃんおばあちゃんもいます。とくに民家のそばを歩いて島を巡るときは、声のボリュームに気を付けていただけるといいかなと思います。

②写真を撮るとき

写真を撮るとき、画角を定めるのに夢中になっていつのまにか道路に出ていたり、家の敷地内に入ってしまったりすることがあります。それだけ、生活に近い場所に作品があるということです。

写真を撮るのはもちろんOKですが、今いる場所が敷地内ではないか、写真に家そのものや島民の生活の様子が写っていないかは、確認いただけると嬉しいです。

③感染症対策

島は、医療体制の基盤が整っているとは必ずしもいえません。来るときは万全の体調で来てください。瀬戸芸は、島民のみなさんの生活があるうえで成り立っているお祭りです。

おじいちゃんとおばあちゃんの笑顔を守るためにも、まずは私たちが健康でいないと、と思っています。


このほかにも注意事項はありますので、Webサイトからご確認ください。


行くまでに用意してほしいこと

作品鑑賞チケットは、事前に買っておくと便利です!今回新たにデジタルパスポートを導入したようで、接触をなるべく減らしながら作品鑑賞を楽しめます。

デジタルパスポートは瀬戸内国際芸術祭公式アプリから買えます。(ダウンロードは無料)

私のおすすめは「作品鑑賞パスポート」。春・夏・秋すべての会期ですべての島の作品を楽しめるお得なチケットです。(場所によっては別途鑑賞料が必要な場合があります)


実は今、前売り価格でめちゃくちゃ安くなっているのです。ひとつの会期(春なら春のみ)限定のチケットが4200円なのに、全会期楽しめる作品鑑賞パスポートの前売りは4000円。見間違えたと思ったくらい、なぜかとても安くなっています。

4000円で買えるのは4月13日(水)まで。春会期オープンの前日です。全会期行く予定はなくても、安く買える方を選んだ方が絶対にお得です(笑)


余談ですが

私は今までアートが好きだと言い続けてきましたが、「作品そのものが好き」かと言われたらちょっとだけ違います。

作品を通して、地域の歴史や環境、人びととのかかわりを感じるのが好きなのです。瀬戸芸はまさにそういう芸術祭。岡山に引っ越してきた1年前から、間近で感じられるのをずっと楽しみにしていました。


「地域」と呼ばれる場所は、瀬戸内に限らずどこも閉鎖的になりがちで、外の世界を見ようとしないと見えにくいのが現状。そこに「アート」という異文化が入ることによって、人が集まり、はじめは理解しがたくても相互理解のきっかけとなり、家や学校・職場とは違う第3の居場所に変化していくです。地域にアートがあると、「私はここにいていいんだ」と思えるきっかけにもなりうると思います。(私がそうでした)

だから私は、いろんな世界を見せてくれるアートが好きだし、地域が好きなのです。


瀬戸内国際芸術祭は、名前の通り芸術の「お祭り」だけれど、ただ楽しい場所、美しい場所であることを伝えたいわけではない。訪れた方が、瀬戸内という地域に思いを馳せるような時間を過ごせますように、と思っています。


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