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【SF短編】菅浩江『不見の月』【感想】

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最近パソコンを買い替え漬物石になっていた以前のPCのデータを整理していると、そのPCの中にはだいぶ前にデジカメで撮った写真がいくつも保存されていた。懐かしく思いながらそれらの写真を眺めていた。私の通っていた高校ではおそらく珍しいと思うが家庭科の夏休みの宿題があった。その宿題は家で料理を作ることで、私はバターライスでハヤシライスを作って家族に振る舞った。その時の写真が残っていたのだがそこには料理の写真ではなく私が調理しているときの台所に立っている写真ばかりが収められていてちょっと恥ずかしくなった。いくら物珍しいからってなんでこんな写真ばっかり……。

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 『不見(みず)の月』は2020年 第51回星雲賞 参考候補作一覧より日本短編部門に入っている菅浩江さんのSF短編作品です。あらすじは全世界の芸術品が収められた博物館惑星<アフロディーテ>に娘を失った画家が移住した。月での事故で娘を失った画家は「不見(みず)の月」という22の連作を作りそれが遺作となった。亡くなった娘は次女でその姉が持っていた連作の1作品が強盗されかける事件が発生する。しかしその作品は酷い加筆が加えられていた。誰が何のために加筆したのか、何故絵は強盗に狙われたのか。謎に迫るうちに明かになっていく「不見の月」に込められた想いとは?

 長女と画家の関係は余り良いものではなかったです。

かくも肉親を理解するのは難しい、

と長女は言っています。加筆が本人によるものか鑑定し売り払うために作品を持ち出したところを強盗にあったのです。

以下ではネタバレに触れるため気になる方はバックして欲しいです。






 絵に加筆を加えていたのは画家本人でした。一見酷い加筆に見えるそれは実は形状記憶合金でできており熱を加えること、例えば絵を燃やす事で本来の形を取り戻す彫刻作品だったのです。彫刻は一家集合した幸せな瞬間を彫ったものでしたが、次女を亡くし不仲な長女と2人でいる中で単に彫刻を飾る事が頑固な画家には出来なかったのです。不仲だからこそ長女が絵を燃やした灰の中から一家の幸せな彫刻を見つけるという周りくどい方法にすがっていたのでは、と思われますが真意は明かされないまま画家も亡くなってしまいます。

 画家ですので芸術作品で表現してきたのでしょうが、これは作品そのものに意味があるのではなく、作品に出会うまでの過程も含めてプロデュースすることでやっと表現したかったことが表現できるようになるということなのでしょうか。

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 もしかしたら、デジカメにエプロンをつけて調理場に立っている写真ばかり取られていたのも料理そのものより、その料理を作るまでの過程にこそ意味を見いだしていたのかな?と思い至りましたが、今更この写真を見せたところできっと覚えてはいないのではと思います。でも直接聞いてみたい気もします。一体なにを思っていたのでしょうか。

うーん、かくも肉親を理解するのは難しい。

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