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自分が正しいと思っていない?「正欲」を読んだ

自分が今まで生きてきた世界は、きっと小さいのだろうなとは思ってはいたものの、この話を読んだ後は、思っていたよりもっともっと小さい世界しか知らなかったのだと、今まで思っていた以上に、自分はなんと浅はかな考えしか持っていなかったのだと衝撃を受けた。

この話にはいろいろな人が登場する。
その登場人物が絡み合い、冒頭の事件につながっていく。
子供の不登校という問題を抱える啓喜、啓喜の息子は、不登校を克服しようと、YouTubeにチャレンジする。
人より感受性がゆたかで敏感な八重子、八重子が所属する実行委員会はダイバーシティフェスをテーマに学園祭を盛り上げようとしている。
八重子が思いを寄せる大也は、ダンスサークルに所属している大学生だ。
一方で、ひっそりと目立たないように生きているように見える夏月。夏月の同級生の佐々木。夏月と佐々木は同級生の葬式で再会する。

大也の名も、佐々木の名も、冒頭ででてくる児童ポルノ摘発事件で出てくる名前なので、いったいどういうこと?と思い読み進んでみると、読者の想いは意外な方向に裏切られることになる。

人間の三大欲求といわれる、食欲、睡眠欲、性欲だが、大多数だからといってそれが「正しい」前提で、話されることは「正しい」のか。
ダイバーシティといっても、多数側が、少数側を「受け入れる」というのは多数側の傲慢ではないだろうか。
冒頭に出てくる水道管盗難事件、あなたはおかしいねって笑わなかっただろうか。

最後の八重子と大也の言い合いには、考えさせられた。
理解できないだろうから、言わないということは、普段の生活にもよくあることだ。
確かに言わないと伝わらないことはある。
でも、だからといって全部言ってしまうというのはどうだろう。言ってしまうことで、拒絶された経験がなくても、それが、人間の生きていく根幹にかかわることだとしたら?
伝えるのが正しいとか正しくないとかそういうことではなくて、それ以前に伝えられないことっていうのが存在するとしたら?
しかし、それでも人間って繋がりたいと思ってしまう。

この本を読んで以来、マイノリティーの問題について考え方が変わったように思う。
お互いに価値観が違う部分に関しては気軽に語り合えるものではないと思うようになったし、そもそも自分の想像力にも限界があるのだと思うようになった。
2023年に読んだ本のなかでも極めて印象に残った本。

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