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現代美術オンラインイベントJPのこと

カレンダー開始

2020年4月7日、新型コロナウイルス感染症流行の第一波を受けて日本で緊急事態宣言発令。都内美術館が閉じ、地方へ感染が広がるにしたがって閉館は全国に及んだ。このあたりから、開催予定だったイベントをオンラインで配信するケースが急増した。それはもちろん、せっかく準備したイベントをまったくやらないで終わりにするよりは・・・という苦肉の策だった。でも一方で、嬉しかった人も多かったと思う。もとより、移動のことを考えるとすべてのイベントを現地に見に行くことはできないわけで、それが家にいながら覗けるのはすごくありがたいことなのだ。上海に住んでいる私はなおさら、日本のアートシーンに触れることができるオンラインイベントを貴重に感じていた。

その後いったんは感染状況が落ち着いて、美術館も時間を限定するなどしながら再開し始めるが、オンラインイベントは減らなかった。またいつ閉館ということになるかわからないので、リアル会場とオンライン配信の抱き合わせで、あるいはトークイベントなどはもとからオンライン配信のみで準備するということが続いた。その結果、月に30件以上のイベントが開催されるようになっていた。私はだんだんと、見ようと思っていたイベントを見忘れる、ということを経験するようになる。きちんとしたリリースなどが行われないオンラインイベントは、見過ごされやすい。

第二波の兆しが見えはじめた7月11日、Facebookで「オンラインイベントの番組表を何人かでつくっていけないかな」とポスト。この時はまだ、誰かがもうやっているんじゃないか?とも思っていた。

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これに橋本誠さん(アートプロデューサー)や山城大督さん・藤浩志さん(ともに作家)らが反応。コメント欄でやりとりした結果、まだ誰もやっていないようだということがわかり、カレンダーがいいのではという話になった。共有するなら便利なGoogleカレンダーをと、とりあえず自分で作り、橋本さんに一緒にやってほしいとコメント欄で投げかけた。

私はかなり引っ込み思案な性格で、自分からコトを起こすというのが苦手だ。上記ポストをしたあと、橋本さんから「やります〜」の返事が来るまで「ああ、大それたことをしてしまった」・・・とガタガタしていたのを思い出す。それでも自分の背中を押したのは、苦境の業界に貢献しようと頑張る仲間たちの存在だった。

(ロックダウン期間中)日報を出し始めたロンドンのICAとか、応答としていち早くヴァーチャル展を組織した北京のM Woodsとか、仲間たちの「アートシーンに対して、なにかできることをしよう」という情熱を目にするにつけ、心を揺さぶられていた。日本でも、美術業界の窮状を政府にアピールするため、ふだんは連携のない現代美術関係者たちに広く声をかけて要望書をまとめた人たちもいた。私は他人に声をかけて何かことを起こそうなんてこれまで一回も思ったことがなく、この時、ほんとに反省した。(クラファンページ、「メンバーの思い」(金澤)より)

幸いなことに、このカレンダーづくりには橋本さんに続き、小山冴子さん・吉崎和彦さん(ともにキュレーター)が加わってくれた。3人ともこの業界で百戦錬磨の逸材。仕入れてくる情報の質はもとより、運営全体に対する実務能力とバランス感覚も、これ以上信頼がおけるメンバーは望めないと思うくらいだ。

そういうわけで、この力強いメンバーたちとともに運営をスタートし、適宜話し合いながらこつこつとイベントを登録してきた。振り返ると月に平均50件、多いときは月70件ものイベントが登録されている。

ウェブサイト化のクラウドファンディング開始

ただ、Goolgeカレンダーは本当にそのURLを知っている人にしか見られないので、せっかく月70件登録しても、自分たちの知り合いにしか活用されない。せっかく開催されるイベントの情報が活用されないまま終わっていくのは残念だった。そこで、みなで話し合って、ウェブサイトを作ろうということになった。その資金調達について、助成金の獲得やスポンサーを募ることも検討したが、どちらも自分たちのペースで続けることが難しくなる可能性があった。ボランティアでやっている以上、自主性が確保できなければ元も子もない。

それで、自分たちの活動に賛同してくれる人々からカンパしてもらう趣旨でクラウドファンディングをすることにした。目標額は52万円。2020年11月17日に募集を開始した。

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クラファンページ

クラファンの中で52万円は比較的小額に見えるかもしれないが、本を作るとか展覧会を作るとかいったプロジェクトに比べ、万人にアクセス可能なウェブサイト作成プロジェクトはリターン設定が難しい。私たちはいろいろ悩んだ挙句、シンプルにお礼メールと広告バナー、二つだけを用意してクラファンをスタートした。見返りがなくても一緒にやろうと言ってくれる仲間がいると信じて・・・。

クラファンとはすべからく、途中なんの動きもない期間=「凪」を経験するものと言われているが、私たちが経験した凪もなかなか長く、苦しかった。収入が途絶えたり先が見えなかったりするこのコロナ禍で、千円のカンパだって厳しいのは無理からぬこと。それでも、少しずつ少しずつ支援が集まり、温かいコメントを寄せてくれる仲間がいて勇気づけられた。

また、2020年12月30日に大澤寅雄さん(ニッセイ基礎研究所芸術文化プロジェクト室主任研究員)が聞き手として入ってくださった「さいきんどうかい」トークで、オンラインイベントによる「距離の無効化」や、ユーザーと発信者の関係性が変化していること、このカレンダーがプラットフォームになることで見えてくる可能性について話せたのは大きかった。私は、自分たちが思っていた以上に、このカレンダーは意義があるのではないかと自覚しはじめた。

そして5回に渡り、次の方々からの応援コメントを掲載させていただいた。

大澤寅雄(文化生態観察)、はが みちこ(アートメディエーター)、古川弓子(アーティスト)、慶野結香(キュレーター、青森公立大学 国際芸術センター青森[ACAC]学芸員)川浪千鶴(インディペンデント・キュレーター)、芹沢高志(P3 art and environment統括ディレクター)飯岡 陸(キュレーター、森美術館勤務)、青山 悟(アーティスト)、池田万由未(認定NPO法人ニコちゃんの会 ケア×企画スタッフ)山内真理(Arts and Law)、荒木夏実(キュレーター/東京藝術大学准教授)、近藤正勝(アーティスト/Allotment主宰)片岡真実(森美術館館長)、山本裕子(ANOMALYディレクター)、塩見有子(AITディレクター)
(すべてリンク先のアップデートから読めます)

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クラファンの潮目を変えたのはこんな彼らの応援コメントだったと思う。考えや思いが多方面からの言葉になることの強さを知ることになった。

さらに、クラファン終盤となった2021年1月11日に2回目のトークを開催。今度は「コロナ禍のオンラインプレイヤーに聞く!」と題し、オンライン展を企画中のICCから作家の谷口暁彦さんと主任学芸員の畠中実さん、オンラインで音楽祭を実施したアートアクセスあだち「音まち千住の縁」ディレクター、吉田武司さん、そしてリアル会場での実施を断念したもののオンラインでできる限り内容を伝えようとしていた札幌国際芸術祭から、コミュニケーションデザインディレクターの田村かのこさんと事務局統括マネージャーの細川麻沙美さんをお招きし、それぞれの取り組みについて伺った。三者三様の苦労と、見えてきたメリットについて話せたのはとてもよかった。オンライン、捨てたもんじゃない!と思った。(ちなみにみなさんには無償でご出演いただいた。とてもありがたかった。)

そして、残すところあと4日というタイミングで、クラファンは目標金額の52万円を達成。その後も賛同してくださる方がいらして、最終的には206人の方から746,975円のご支援をいただき、達成率143%でクラファンを終えた。よかれと思って始めたことがきちんと伝わって、金銭的な支援と、精神的な応援をいただく。こんなに嬉しいことは人生でもそんなにないんじゃないか…。ほんと、ガタガタしながらも一歩踏み出してよかった。

以下は、お礼のメールとして書いたテキストの一部。

現代美術の素晴らしさ、面白さを伝えたい。コロナ禍でイベント開催や集客が難しい中、工夫して企画されるオンラインイベントを支えたい。そういう思いで始まったカレンダーでした。でもこのクラファンを通じて、もっと大きなものが見えてきたようにも感じています。それは、「オンラインでできることの可能性」です。
どんな距離も飛び越えて、世界各地から鑑賞することのできるオンラインイベントは、観客の幅を広げます。また、一度配信されたイベントは、アーカイブを残すことが簡単です。これはより多くのオーディエンスに届くという効果だけでなく、歴史を紡いでいくという観点からも、重要な意味を持っています。
舞台上の演者・登壇者と観客の関係にも変化が呼び込まれました。コメント欄でのコミュニケーションや、飛び入り参加、また多数の参加者が交代で登場するイベントなど、新しいタイプのイベントが出現しています。
カレンダーがウェブサイトになり、またそれ以降も育っていくことで、新しい時代の創造力に貢献できたら、とても嬉しいです。

今後、状況がどうなっていくかはわからないが、そのメリットを感じた現代美術業界では、コロナ禍がおさまってもオンラインイベントはやはり続いていくのではないか、と思う。カレンダーの運営を通じて、シーンを見守っていきたい。

ウェブサイトが完成

さて、クラファンでご支援いただいた成果として、2021年3月1日、現代美術オンラインイベントJPのウェブサイトをローンチした。

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現代美術オンラインイベントJP
https://www.online-art.jp/

現代美術ファンの方、現代美術に興味のある方はぜひブックマークして使い倒してほしい。特に、オンラインイベントは数日前、前日といったショートノーティスが多いので、ちょくちょく覗きに来てもらえれば幸いである。

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最後に改めて、ウェブサイト化にあたりご支援いただいた皆様に心から感謝を申し上げます。

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