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お金よりも命の時間。もうこれで息子を入院させずにすむ。これが一番の安心感だったりする。

息子が起きてこない。
どうやら調子が悪いらしい。
「お母さん……熱かもしれない。」
38.7℃
そこそこあった。
よしっ。
今日は休もう。
とにかく寝てよう。
休めない、なんていう現実はおかしいから。

お金より責任感より命

母はわりと元気な体だけど、長男は違う。
保育園に通っていた時は、月1回で熱を出す子だった。
小児科の常連さん。
看護婦さんにも顔パスだ。
本人が悪いわけではないのだが、
生まれた時から小さい子で体も細く、食も細い。

こういうタイプの子をもちながら、
仕事と子育てを両立していくのはハードモード極まりなかった。
精神病の父親に我が子を任せるなんてもってのほかだった。
絶対、実家は頼りたくない。
お姑さんがすごく協力的な人で良かったとつくづく思った。
それでも病気のたびに看病をお願いされて
ストレスもたまっていたのだろう。
ある時、物申された。
夫と相談してそれからは、少しばかりの謝礼を渡す事にした。
私たちの子どもだから。
親しき中にも礼儀ありを身に染みて感じた出来事だった。

当時の私の仕事は充実しまくっていた。
クラスリーダーという責任ある立場になり
保育園全体にとって何が必要かを先読みして、
クラスの人間関係を観察し、的確な指示を出す。

これは、大変だぞと思いつつも、
今まで学んできた保育を実践していくいい機会だった。
担当制保育をするため、根回し、教育、実践。

常に、3歩先ぐらいを読んでいないと生活も回らない。
家の中は正直ぐちゃぐちゃだった。

そんな雰囲気を察したか、察していないのか
ある時、息子の熱が3日続いた。
こりゃダメだと診察時間終了ギリギリに小児科に駆け込むと
「おかあさん、この子危ないから紹介状持って大きい病院へいって。」

!?
なんですと?
今から?
18:30
下の子も連れての小児科。
大人は私一人。
というか、危険って何?
何か大変な病気なの?
不安がよぎる。

どうする?

この状況どう乗り切る?
明日は早番出勤。
私が行かないと保育に支障が出る。
休めない。
頭をフル回転させて、
夫とお姑さんに連絡をとる。

とにかく、タクシーに子ども二人をのせて
大きい病院へ向かう。
病院でお姑さんと夫と合流。
お姑さんに次男を預け帰ってもらう。

夫と相談して、
この日の夜は私が病院に付き添い、
朝一番で交代して
私はとりあえず職場へ行き事情を伝えることに。
夫がなんとか休みをとってくれた。

みんなハラハラしていた。
長男は大丈夫かと。

私は、職場について焦りつつもプロとして仕事をこなした。
ただ、大変な事は伝えておきたかった。
先輩に事情を伝えると、
「勤務(早番・遅番)、全部もらうから!」
ってすごくありがたいことを言ってくれる姉御肌の先生がいた。
本当に、救われた。
こういう優しさが身に染みた。
子どもたちの前なのに、うるうるした目になってしまい
ぐっとこらえるのに必死だった。
プロはいかなる時も、口角をあげろと教わったから。

保育園は基本的に時差勤務で回っている。
早番担当2人、遅番担当2人。
この担当の日は絶対休めない。
子どもたちを見る人がいなくなってしまうから。
だから、職場を休むためには
まず時差勤務を誰かに代わってもらわなくてはいけない。
これが、正直めんどくさい。
一人一人に交渉しなければいけないから。
私だけが、子育てをしているわけではないし
介護している先生だっている。
みんな、大変なんだ。

母親で職場のリーダーの私が全部やらないといけない
という長女気質も手伝って「やらねば!」が全開で、
自分だけで何とかしようともがいていた。
息子が入院という緊急事態になっても。
この謎の責任感に気づいたのは、後になってからだ。

ずっと、身体が緊張していた。
ついに崩壊したのは、お舅さんの言葉だった。
悪気はないのはわかっている。
でも、傷ついた。
頑張っていただけに。
「なんで、母親が休めないんだ?」に。

私は、夫の前で号泣した。
なぜかわからないけど、
理不尽を極まりないって思って。
今、この状態の私に向かって、それ、言う?

休みなさい

私は、人に頼るのがとっても苦手だ。
あの時、人生の強制ストップが入ったようで、
園長先生から
「入院なら、休みなさい。」と言ってもらえた。
勤務の全ては、フリーの先生が調整してくれていた。
本当にいい職場で働かせてもらっていたなと
ありがたく思えた。

つきそいは、24時間。
私は、1週間ずっと病院で我が子と一緒にいた。
つかの間の休息だった。

私は、なぜこんなも働いているんだろう?

子どもたちが好きだから?
お金のため?
やりがい?
楽しいから?

考えた。
考えて、考えて、考えた。

もしかしたら
私が、家にいた方がみんなが幸せなのかもしれない。

ワーカーホリックから

私は比較的メンタルは強いと思う。
それゆえ、大変なクラスを任されることが多かった。
それでも私ならできるという、謎の自信があった。
そのまま、ずっと来てしまった。

心が強いと思っていたけど、
こうなると無理だった。
へこたれてしまった。
いや、違う。
忙しすぎたんだ。
子育て60%、仕事60%でやってきたけど、
合わせたら120%だ。
とうに限界を超えていた。

でも、仕事は好きだった。
ゲームで言うならここはハードモードの世界。
いつの間にか中毒状態に陥っていたのかも。
私は、本当にハードモードでクリアしていきたいのだろうか?
イージーモードってないのだろうか。
そもそも仕事って何だろう?

仕事は、働くこと。
「働く」の語源は傍を楽にする事らしい。
私の周りのみんなを楽ちんにすることか。
それって、私がごきげんで家にいて、
幸せに笑っているだけでいいのかも。
今の不安な要素は、住宅ローン?
それならボーナスためて繰り上げ返済しちゃえばいい。
あと3年もあればいけそうだ。
過去の自分に乾杯しよう。

世の中がコロナに呑み込まれた。
私にとってはちょうどよいタイミング。
コロナで仕事辞めたんですって言えるから。
嘘じゃない。
みんなは勝手に納得してくれた。

保育士を辞めた。
公務員という肩書も捨てた。
スッキリした。
今の私には、何もない。
何もないけど、家族のために働いている。

本日は晴天なり


あの時、入院して元気になった長男。
その後、扁桃腺除去の手術もうけた。
だいぶ元気になったけど、時々熱を出す。

現在38.7℃のジンくん。
今日はゆっくり休んでいいよ。
母の私はここにいるからね。

あぁ、こんな日常がありがたい。
ほっとする。
青い空を見上げて、落ち着こう。
大丈夫。
熱はちゃんと下がるから。


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