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多様性はイノベーションをドライブするが、効率のブレーキになる(4/4)

<この記事は2019/10/07公開の記事を移植したものです>
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□登場人物
・河合純一
 →日本パラリンピック委員会 委員長 / 東京パラリンピック選手団団長
 →※取材当時は日本身体障がい者水泳連盟 会長
・森永真弓
 →極度のスポーツファン
□写真:平林克己
□企画/編集/執筆:望月大作

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見てみない振りと違和感

森永
今、日本の現実において健常者と障がい者の接点が少ない中、これから河合さんが解決していこうとか、変えていこうとかこうなったらいいなと思ってる事ってどんなことがありますか?

河合
そうですね、やっぱりパラリンピックを通じて知ることや、そういう周りに障がいを持った方がいないことに対する違和感みたいなものを持ってもらえるのが一つだと思います。たとえば自分の職場に障がい者がいないことに気付くこと。地域にいないではなく、自分たちが見えていないだけとか、自分たちの会社や地域がそういう人たちを受け入れようとしていないことに気づくことなんじゃないかな。

社会が障がいを生み出しているんだってことです。社会は自分自身も社会の構成員である以上、自分が変わらない限り、社会は変わらないんだと思っているんですよね。

森永
その社会側や個々の自分側みたいなものに、欠けてるなぁと感じてる意識ってどんなものがありますか?

河合
積極的にあまり触れようとしてないとか、まだまだ見て見ぬふりみたいなことなんじゃないかなと思います。

森永
数字上では、障がいを持った方が社会に1割ぐらいいるはずなのに、実際の社会ではその比率が目に見えてこないとか、触れ合う機会がないこともありますか?

河合
政策もそうじゃないですか。国が障がい者の雇用率を水増していたぐらいですから。

森永
学校が分かれている話もなんだかんだ言って原因ではありますか?

河合
それもあると思います。

森永
子どもの数が減っているから校舎を一緒にするぐらいすればいいのにと、ついついアバウトに思っちゃうんですけど。

河合
実は特別支援学校の数は増えているんですよ。特別支援学校となったことによって、子どもたちをそちらに通わせて、先ほど言った教育費をかけながら丁寧に見てくれる学校で見てもらったら、子どもにとって幸せだって思う親御さんが増えてきてるのも事実です。子どもの絶対数は減っているのに、特別支援学校の数は全国で増えているんです。

森永
それは昔であれば普通の学校と言われるところに通わせていた子供が特別支援学校に、ってことですか?

河合
そうです、そういうことです。顕在化してきたってことです。

森永
ちなみに日本においては地方と都会、東京や大阪で環境の違いはあったりするんですか?教育とか生活、あるいは働く環境など。

河合
それぞれどの障がいに依るかにもあると思います。便利さ不便さはそれぞれに違うので、例えば都会の方が視覚障がいの僕らにとっては楽なんですよ。公共の交通機関が充実しているので、車の運転ができない自分にとっては楽なんです。でも車を運転してそれで行き来する人にとって都会は、非常に車も多くて大変だし、すぐに車椅子用の駐車スペースに止められないみたいな不便さが出てきます。他方、田舎の方が広い運転や駐車は簡単に出来るし、それが楽だと思う人もいるじゃないですか。だから一概には言えません。

森永
職業のパターンは都会のほうが多いとか、地方の方がむしろ仕事があるかはありますか?

河合
それも障がいによって違います。どんな仕事でもいろんな合理的な配慮があればできることはあるって事だと思います。もちろん好き嫌いや得意不得意はそれぞれあるし、障がいによってもそれはあると思うので、そこはちゃんと分けるべきだと思うんですよね。

森永
職場は人数を国が水増ししていたぐらいですけど、進出が図られないのは何か理由があるんですか?

河合
ざっくり言えば切り分けが出来ないんですよ。なかなかそういうのが苦手なんです。日本の職場は一人がマルチにこなすことが、出世することにつながってると思ってるから。

森永
確かに専門職の取り扱いって辺り構わず苦手な職場が多い気がしますね。よく言われるのがプログラマーさんで出世していくと管理者になっちゃって、自分は一生プログラマーでいたいのに、マルチでやることを求められて、何か楽しくないってこととか。

河合
そういう人もいますよね。両方のそういう給料の体系性と職位職階が違ったりするので、そこは難しいところですよね。年齢・年功序列もすごくまだ影響していますし、能力で評価されてるのか、そういった年齢で評価されてるのか、自分の実績で評価されているのか、それが明確じゃない。

森永
たしかにその全体的な雇用問題の弊害部分を、障がい者の雇用にも負わせちゃっている部分ってありますよね。

河合
あるんじゃないですか。

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ダイバーシティとイノベーション

森永
パラリンピックをきっかけに今まで出来てなかったことにドライブかけてみようかなとか、このチャンスは活用しようとか、うまく流れに乗ると思っていることがあれば教えていただければ。

河合
今日話してきたこと全てを、どうやったら変わるのかなとは思っています。ただ本当ほんのちょっとその視点を変えるだけだと僕は思っていて、何でそこに気づけないんだろうって僕からすると思うことが多いんです。そこに多くの人に気づいてもらいたいなと思っているんですよね。

ダイバーシティって女性が例えば何割いるとか、そういうのも含めてありますけど、やっぱり新しい視点が入ることで変わっていくことがすごくあるんですよね。そこにみんなが気付けるかどうか。それでダイバーシティはイノベーションのすごいアクセルになるんですよ。でも効率を追求するときに、それはブレーキになるんですよ。これはオペレーションにおいては事実なんです。

イノベーションはアイディアを出すためのツールだから、でもそういうときにはすごく重要だし、そういう場面場面で使い分けなきゃいけないんじゃないかなと思っています。

森永
なるほどなぁ……ダイバーシティはイノベーションのドライブになるが効率のブレーキになるというのは、確かにそれはいろんな面でありますね。例えば妻が専業主婦の男性と独身男性ばかりの職場で、子育てと家事に積極的に関与したいと思っている共働きの男性がいたとしたら、その人のおかげで職場に働き方とか家庭のあり方を見直すきっかけが生まれて改革につながるかもしれないけれど、その人のせいでメンバー全員が同じ動きを出来ないからチームとしての成果効率は前より落ちるかもしれない。

河合
そうなんです。だからダイバーシティはすごく良いんだという人もいるけど、僕はやっぱりネガティブなポイントがある事実は認めた上で、もう一歩進めてほしいなと思っているんですよ。

森永
きっとダイバーシティとか多様性の状態も適材適所があるんですよね。

河合
重要なのは社会そのものはインクルーシブでダイバーシティってことに気づかないといけないんじゃないですかってことです。

森永
ちなみに何でこんなこと気付かないんだろうって思うことがいっぱいあるとおっしゃられてましたけど、最近だとどんなことがありましたか?「そこ気づいてないのか!」みたいなことって。「それは障がいの有無は関係なくない?」とか、「そう整理されがちだけど理由は違うはずなのに」とか。

河合
例えばですけど、僕は当然地図が見えないですよね。その僕がどこ行くか分からないという状態と、スマホ忘れてしまった人の状態は同じじゃないのって思うんですよね。

森永
はいはいはい。私なんか方向音痴だからとても良く分かります(笑)。

河合
そうなると別に、ある意味困っている状態としては同じじゃないですか。困っている理由によって分けて考える必要はないんじゃないかなと思ったりするところがあります。誰にでも起こり得るっていうことが重要なんですよね。選択肢がないってことが、そもそも平等じゃないってことだと思っているんですよね。

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Profile

河合純一
1975年4月19日生まれ、静岡県出身。筑波大学附属盲学校高等部―早稲田大。1992年バルセロナ大会を皮切りに2012年ロンドン大会まで6大会連続でパラリンピックに出場し、5個の金メダルを含む計21個のメダルを獲得。2016年には国際パラリンピック殿堂に、日本人として初めて選出された。パラ競技の普及活動にも携わっている。
2020年1月より、日本パラリンピック委員会委員長に就任。

森永真弓
神宮外苑・代々木公園周辺で様々なスポーツ競技に囲まれた環境で生まれ育った生粋のスポーツ観戦好き。
日本スポーツアナリティクス協会イベントSAJ2018,2019,2020でモデレーターや、通称「ツイ廃夫婦」の妻の方としてEKIDEN NEWSトークイベントやオトナのタイムトライアルSNSの中の人を務めるなど、スポーツ×マーケティング、スポーツ×コミュニケーション領域のテーマに多く携わる。スポーツファンによるTwitter実況を分析した同人誌も発行するなどの活動も行っている。Twitter ID: @koeda

多様性はイノベーションをドライブするが、効率のブレーキになる(1)
多様性はイノベーションをドライブするが、効率のブレーキになる(2)
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