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敬意を持ったやり取りのためにー二重共感問題とはなんぞや?

この記事は2,523文字あります。個人差はありますが、4分〜6分でお読みいただけます。

このnoteではVoicy(音声配信)で配信した内容のテキスト版(簡易版)です。ぜひ併せてご活用ください!ちなみに、Voicyは下記チャンネルで毎日更新しています!

今回のテーマは、「二重共感問題とはなんぞや?」です。どうぞお付き合いください。


この10年で言われるようになった概念

僕は、いくつかのキーワードに合致したニュースや論文がメールで届くように設定しています。そうすると、大体毎日なんらかの通知が来ます。例えば、自分の持っている資格(公認心理師、臨床心理士、精神保健福祉士など)に関するトピックなどのお知らせが届くみたいな感じです。
  
その中で、最近「二重共感問題」なるキーワードをテーマにしたお知らせが届きました。この二重共感問題って、まだまだ新しい概念で、「何それ?」という方もおられるんじゃないかなと思って、今回取り上げてみたいと思った次第です。

この用語が取り上げられるようになってから、実はまだ10年くらいです。
2012年に英国のダミアン・ミルトン先生が「On the ontological status of autism: the ‘double empathy problem’」という論文で提唱したのをきっかけに、現在も様々な研究・議論がなされています。

それってどんな理論なの?

従来は、自閉症スペクトラム(ASD)の人とそうでない人のやり取りがうまくいかない要因に、"ASDの人の"社会性や社会的コミュニケーションに問題があるとされてきました。その結果として、どうやったら人とのやり取りにおける不都合を減らせるのかを、"ASDの人に"教えるということが、よくなされてきています。

たとえば、やり取りでうまくいかないのは、ASDの人が相手の気持ちを読めないからで、それができないASDの人に問題がある。だから相手の気持ちが読めるように教えようとか。コミュニケーションがうまくいっていないのは、雑談ができないASDの人に問題があるわけなので、雑談の仕方を教えようとか、そういうことがされたりしてきました。

もちろん、不都合を減らすために必要な知識を一緒に確認していくということはあって良いと思います。

ただ、ダミアン・ミルトン先生が提案した「二重共感問題」では、すごくざっくりとした説明をすると、「いやいや、ASDの人にだけ問題があるっていう考え方はどうなの?交流やコミュニケーションって相手あってのものなんだから、どっちにも問題あるんじゃないの?」という考え方です。

人とのやり取りは、一人で完結しません。相手あってのことです。
それなのに、どうしていつもASDだけが問題にされるのか?というのが出発点なんだと思います。

たとえば、ASDの人が相手の気持ちや意図を汲み取ることに苦労するのは事実かもしれません。でも、そういう先入観を非ASDの人(多数派)が持ったり、大した説明もしていないのに「普通わかるでしょ」みたいな対応をしてしまうのは多数派側の問題じゃないのかという感じです。

誰しもが、大なり小なり他の人とは異なる文化で生活している

もっと身近な生活に置き換えて考えてみます。

たとえば、何年か前に話題になった銀座ロフトのフロア案内板。
「ワーク&スタディ(WORK & STUDY」と表記されいました。

これなんのフロアなのかわかりますか?


…..その後「文房具のフロア」とテプラで貼られたそうです。
他のフロアの表記も似たような感じで(生活雑貨のフロアが"ホームクリエーション"とか)、おしゃれに寄せすぎた結果「デザインの敗北」とまで言われたりしていました。


さて、この時「ワーク&スタディ(WORK & STUDY」で「あ、文房具のフロアなのね」とわからなかった方。それはその方だけの問題なのでしょうか?

そうとも言い切れないですよね?

「このセンスがわからないのは、佐々木くんの問題だね」とされても、「いや、オシャレにされすぎてわかんないよ!」と、少なくとも僕はなります。

このようにどちらかだけの問題とするのではなく、なんらかの不都合が生じている場合には、「割合の問題はあるかもしれないけれども、どちらかが100%ということはない」という視点を持ってみることも大切ではないでしょうか?

色々な研究

ちなみに、これまでASDの人たちは共感性に乏しいと指摘されていましたが、ASDの人はASDの人に対してよく共感できるという報告がされました(Komeda, H*., Kosaka, H*., Saito, D.N., Mano, Y., Jung, M., Fujii, T., Yanaka, H., Munesue, T., Ishitobi, M., Sato, M., Okazawa, H. (* equal contributors) (in press). Autistic empathy toward autistic others. Social Cognitive and Affective Neuroscience.)。

海外でもASDの人同士のやり取りは、そうでない人とのやり取りと比べて良好だったという報告もあったりします。

これらは、ASDの人にだけ問題があるのであれば、ASDの人同士で共感したり、やり取りするのは、より困難になる可能性が考えられますが、そうではない、相手によるのだということを示唆しています。

最後に、ダミアン・ミルトン先生の言葉を紹介したいと思います。

この分野への研究を拡大することで、私たちの理解が深まり、二重共感の問題から生じる可能性のある社会へのマイナスの影響を改善できる、より敬意を持った介入につながる可能性があります。

ASDに限った話ではなく、人と人がやり取りする際に、この「敬意を持った介入」ってすごく大事なのではないでしょうか。


補足はVoicyの配信をお聴き頂ければと思いますので、宜しければVoicyの方も応援していただければと思います!

佐々木康栄

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これまでnoteにまとめていましたが、TEACCHプログラム研究会東北支部のホームページに集約しました。宜しければご活用ください。


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代表を務めているTEACCHプログラム研究会東北支部で、「寄付型セミナー」を立ち上げています。ぼくの衝動的な行動であることは自覚しています。それでも、今ぼくらにできることを考え、過去に配信したオンラインセミナーを再度配信させていただき、その売上(配信や販売に関わる手数料を差し引いた全額)を能登半島地震の支援・復興に向けた寄付することに決めました。宜しければ応援してもらえると嬉しいです。


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そのため、どの地域でもできるわけではありません。今回、泉大津市内のブルーライトアップをしたい!という想いを叶えるためのクラウドファンディングです。目標金額は220万円です。ちなみに、これは行政と一緒に取り組んでいるものなので、「ふるさと納税」として寄付ができます。

ぼくも応援メッセージを出させて頂いています。どうか皆さんも応援していただけないでしょうか。

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