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皇位継承問題で無為無策の菅内閣及び政権与党

安定的な皇位継承策に前向きではない政府

 令和2年11月7日付け共同通信で「皇位継承策、見送り論が強まる 女性宮家など次善対応焦点に」という記事が発信されました。

国会が速やかな検討を求めている安定的な皇位継承策に関し、政府内で結論提示の見送り論が強まった。複数の政府関係者が7日、明らかにした。男系維持か女性・女系天皇容認かで国論は二分されており、政府として明確な案をまとめるのは時期尚早との判断に傾いた。次善の対応として、女性宮家創設を含む皇族数減少対策に踏み込めるかどうかが焦点となる。

 令和2年11月4日の衆議院予算委員会の質問の冒頭部分において、玉木雄一郎国民民主党代表が菅義偉総理大臣に安定的な皇位継承への取組について質問しています。

 玉木雄一郎国民民主党代表は、菅義偉総理大臣に対し、官房長官時代の答弁で立皇嗣の礼後に速やかに行うと述べていたことに触れ、安定的な皇位継承についての議論の開始時期について質しました。これに対し、菅総理大臣は男系継承の重みを踏まえながら速やかに行うと答弁しています。
 共同通信の報道は、世論の動向を見るためのアドバルーンである可能性は高いと考えていますが、菅内閣では決して安定的な皇位継承の議論について前向きではないことを示しているといえるでしょう。

女性天皇、女系天皇について世論は二分されていない

 NHKが実施した世論調査において、国民世論の動向は明らかとなっています。

Q 安定的な皇位継承のため皇室制度を改める必要あるか?
  「改める必要がある」  54%
  「改める必要はない」  31%
  「わからない・無回答」 15%

Q 女性が天皇になるのを認めることに賛成か?
  「賛成」        74%
  「反対」        12%
  「わからない・無回答」 14%

Q 「女系」天皇の意味を知っているか?
  「よく知っている」    6%
  「ある程度知っている」 35%
  「あまり知らない」   37%
  「まったく知らない」  15%
  「わからない・無回答」  6%

Q 「女系」天皇を認めることに賛成か?
  「賛成」        71%
  「反対」        13%
  「わからない・無回答」 16%

 女性天皇や女系天皇に関する質問に際し、回答者の頭の中に浮かんでいるのは愛子内親王殿下であると思われますが、女系天皇というものについての理解が進んでいないものの、女性天皇、女系天皇を認めることについては反対意見の5倍もの賛成意見があることがわかります。これは、感覚として国民が直系である愛子内親王に正統性を感じているということができそうです。つまり、議論が二分されているのは自由民主党を初めとした政権与党及び政府の中のみであるということになります。

安定的な皇位継承に費やすことができる時間はあまりない

 立皇嗣の礼を経て、皇嗣殿下が皇位継承順位1位となったことを内外に宣言することになりましたが、天皇陛下と皇嗣殿下は5歳違いでほぼ同じ世代です。皇嗣殿下が天皇となるときにはかなりの高齢であることが想定されます。皇室典範が改正されないままであれば、皇位継承候補者の次の世代として皇室に残っているのは悠仁親王殿下だけとなります。そして、この悠仁親王殿下に嫁ぐ女性は、男子が生まれなければ皇室が断絶するというこれまでにないプレッシャーの下、皇室に入ることになります。このようなプレッシャーが目に見える状況の中、果たして悠仁親王殿下と婚姻するお相手が現れるのでしょうか。上皇后陛下や皇后陛下もまた男子誕生を望むプレッシャーの中で心身を病んでしまったことがありました。しかしながら、悠仁親王殿下に嫁ぐ女性のプレッシャーはこの比ではありません。皇室が存続するかどうかがかかることになるのです。 
 そのような未来が迫り来る状況の中で眞子内親王殿下は婚約の話があり、佳子内親王殿下も今年26歳になられます。仮に、眞子内親王殿下が婚姻によって皇室を離れた後に佳子内親王殿下に女性宮家を設立して皇室に残ってほしいというのは筋が通らないと思います。安定的な皇位継承のための暫定的な策である女性宮家設立ですら残された時間は少ないのです。

いわゆる「旧宮家の皇室復帰」では皇位の安定継承は望めない

 自由民主党の保守派からは、GHQの占領下における臣籍降下により皇族でなくなった伏見宮家系の宮家の血をひく男系男子を「皇族復帰」させるという案が強く主張されています。しかし、私は、この案については実現が難しい上に皇位の安定継承に繋がらないと思います。
 まず、第一には、伏見宮系の宮家については、占領下でなかったとしても臣籍降下することが決まっていたということが挙げられます。宮中某重大事件などの騒動を経て伏見宮系の宮家の皇族に対する評価が下がるとともに多すぎる皇族という問題が浮上し、皇族降下準則が制定されるに至りました。上皇陛下は、皇位継承については国民の議論により決まるものと述べつつ、皇室のあり方については皇太子(天皇陛下)と秋篠宮(皇嗣殿下)にも話を聞いてほしい旨おっしゃっておられました。皇嗣殿下は、宮家の数が増えないのは経済的な面で適切だとしていわゆる「旧宮家の皇族復帰」を否定しつつ、女性皇族が皇室に残ることによって皇室が存続していくことを暗に肯定する発言をなしておられます。
 第二には、嫡子である男系男子が継承するという現在の皇室典範の改正がなされない限り、安定的な皇位継承は望まないということです。男系男子による皇位継承は側室制度によって維持されてきたもので、歴史上皇統が庶子によって継承されてきたのは半数にも迫る数となっています。その後、昭和天皇の時代に側室を置かないという転換がなされ、皇位継承に嫡子であるという縛りが加わりました。なお、この転換については、側室を抱えて皇統を継承させていくということが近代以降どのように見られるかという点で考えれば英断であると私は考えています。しかしながら、この転換は同時に男系男子による皇位継承が難しくなるという側面も持ち合わせていました。嫡子である男系男子による継承がなされることに伴い、皇室においても秩父宮家、高松宮家、桂宮家が断絶し、三笠宮家、高円宮家では当主がいない状態となっています。いわゆる「旧宮家の皇族復帰」を唱える方の常套句が

「四つの宮家があれば安定的な皇位継承が望める」

というものでしたが、近年ですらこれだけの宮家が断絶したり当主不在となっていたりするにもかかわらず、新たに四つの宮家を創設することで安定的な皇位継承が可能となるとはとても考えられません。そして、新たな四つの宮家の当主が不在となるという想定できる未来への対応が不可能であるという点で議論に耐えうるものではないと思います。

いわゆる「旧宮家の皇族復帰」で失われる皇室の権威

 いわゆる「旧宮家の皇族復帰」には更なる問題があります。親王、内親王、王、女王については、国民が見守る中でそのご誕生から現在まで時を紡いできており、それが皇族としての権威に結びついています。それに対して、いわゆる「旧宮家の皇族復帰」では何者かわからない者が皇族となるばかりでなく、皇位継承候補者として天皇となる可能性のある立場に置かれることになります。
 近年週刊誌を賑わせているのが眞子内親王殿下と婚約予定の小室圭さんの記事ですが、現在の皇室典範では小室圭さんは皇室に入るわけでもありませんし、仮に女性宮家が創設されたとしても当主は眞子内親王殿下となりますから小室圭さんは当主を支える立場でしかありません。そのような立場でしかない小室圭さんについてすら厳しい人物評価の目に晒されているわけですから、新たに皇族となった上に皇位継承候補者となる者に対する国民の目は更に厳しくなることは明らかです。
 保坂正康さんが旧宮家の血をひく方々に皇族となることについて聞き取り調査をした結果、「畏れ多い」などという回答ばかりで皇族となることを受け入れる方がいらっしゃらなかったのは当然だと思います。皇室ではわずかな例外はあるものの、一度皇族から離れて姓を賜った者は皇族に戻ることはないという不文の法があって、それを君臣の分義といいますが、これは皇室の権威を守るためのものであることがわかります。いわゆる「旧宮家の皇族復帰」は、皇室の権威を損ね、しかも皇位の安定継承にはつながらないという下策であると私は思います。

宮中祭祀の継承の観点からの危惧

 立皇嗣の礼を経て皇嗣殿下が天皇陛下の宮中祭祀に加わることになりました。宮中祭祀は天皇と皇太子だけが参加して行われ、皇太子はその中で次の世代に宮中祭祀を受け継いでいきます。現在の皇室典範では、皇嗣殿下の次に天皇になられるのは悠仁親王殿下となりますが、悠仁親王殿下が皇嗣殿下とともに宮中祭祀に加わる期間が短くなるのではないかと危惧しています。その期間の短さにより宮中祭祀を受け継ぐということがスムーズになされるのかという点について私は心配しています。そして、皇嗣は皇位継承順位第一位の立場しかなく、皇太子のように次に天皇になる立場ではありません。つまり、何らかの要因で皇嗣殿下が皇位継承順位第一位ではなくなった場合には、改めて立太子の礼や立皇嗣の礼をなした上で宮中祭祀の承継が行われることになるわけです。皇太子がいないということは宮中祭祀の継承という面で深刻な影響を残すと私は考えています。