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「ノイマンダー」が「キシマンダー」になることを煽るだけの月刊日本「近代という難題」

ゲリマンダーという事例

 かつて、米国マサチューセッツ州のゲリー知事が自分の所属する政党に有利になるように小選挙区を区割りし、その結果、選挙区が四大精霊のうち火を司るサラマンダーのようになっていたことから、恣意的な区割りを「ゲリマンダー」として批判する事例がありました。この事例は日本で言えば明治維新も始まっていない1812年のものですが、それから200年以上も経過した現代において、恣意的な選挙制度を行えと主張する前近代そのものの記事が発表されています。月刊日本8月号に掲載された著述家菅野完さんのコラム「近代という難題」の「自民党にしかできない『維新対策』」です。

菅野完さんが唱える「自民党にしかできない『維新対策』」

 菅野完さんのコラムは刺激的な言葉で始まります。

 先に結論から書いておこう。
 逆立ちして大阪環状線を二周しようがなんだろうが、自民党は、大阪の衆院選で、維新に勝つことはできない。

近代という難題「自民党にしかできない『維新対策』」

 そして、菅野完さんは、日本維新の会の代表でもある吉村洋文大阪府知事がテレビに出演し続けている現状を指摘し、「大阪における維新が、強すぎる」と述べています。そして、「だが、方途はある」とする章において、こう述べるのです。

 28議席もある衆院比例近畿ブロックから、大阪府を分離独立させてしまえばいいのだ。

近代という難題「自民党にしかできない『維新対策』」

 そして、菅野完さんは、「『大阪では異常に強い維新』の比例票が大阪から溢れ出て『それほど維新が強くない、他府県の維新泡沫候補』を比例復活で救済してしまう結果を生んでいる」対抗措置として、大阪府を近畿ブロックから外すことを主張します。その際に、衆院比例近畿ブロックの歪さや大阪と京都や神戸が生活圏的・文化圏的に断絶しているなどと述べていますが、その理由のすべてが大阪府を比例近畿ブロックから外すためのこじつけとしか感じられません。そもそも、菅野完さんが日本維新の会が強い理由であると分析する吉村洋文大阪府知事が出演しているテレビ番組の電波は近畿地方に広く届いていますし、日本維新の会系の候補が兵庫県など他の府県においても当選していることからその効果は怪しいのではないでしょうか。そして何より菅野完さんの手法は前近代的であるという批判を免れないと思います。

前近代的な手法に終始する菅野完さん

 「noiehoie(のいほい)」というアカウント名を用いる菅野完さんは、日本維新の会の議席数を減らすことだけを目的として比例近畿ブロックから大阪府を外す「ノイマンダー」について、「公職選挙法を部分改正すればいいだけの話」であるとし、「自民党のいまの議席から言えば、目を瞑ってでも片手でやってのけられる仕事」と述べますが、菅野完さんが公職選挙法をまったく理解していないことがよくわかります。菅野完さんが比較対象とする「比例代表『並立制』の是非」を論じた結果の選挙制度改革や「衆院選の合区の是非」の議論に基づく選挙区改正も「ノイマンダー」と同様に公職選挙法の一部改正によって実現されるものですが、まったく変わらないといえる両者の改正手続きを比較して後者のみを「部分改正」と述べるのはどのような根拠に基づくものなのでしょうか。
 そして、何より問題であると考えるのは、国会で多数の議席を有する自由民主党が特定政党を狙い撃ちにする公職選挙法の一部改正を行うことを煽り、そのような一部改正について日本維新の会にたいして「『衆院比例ブロックでも、大阪を東京のように扱いますよ!』とでも」言っておくという杜撰な調整が成り立つと本気で信じ、日本維新の会以外の政党が「受益者側なのだから諸手を挙げて賛成する』などと思い込んでいる菅野完さんは、国会議員や国政政党の矜持などはまったくないとお考えのようです。日本は菅野完さんが考えるより民主的で近代的ですから、国会議員や国政政党はこのような「ノイマンダー」がマスコミや国民にどのように受け取られるか考えますし、何よりこのような民主主義の根幹を揺るがすような公職選挙法よ一部改正について「ふざけるな」と憤る国会議員は少なくないでしょう。
 「近代という難題」というコラムの題名にまったくそぐわない前近代的な「ノイマンダー」を岸田文雄総理大臣が採用して「キシマンダー」になることを夢想する菅野完さん自身が最も近代から遠い存在であることだけは間違いがないようです。