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【親権制】そして国際比較へ

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第2章の第1節につづき、第2節をこちらから

一章については、すでに先月メモしていた。

この経緯で、次の第三章で国際比較の検討が詳細に記されてる。

各国のシステムを紹介した後、全体的な比較を解説する構成である。

比較対象となる国々としては、アメリカ、ドイツ、イギリス、イタリアについて複数の有識者がそれぞれ報告している。同書には、最後に特別寄稿として、韓国の実情も紹介されている。有識者がそろって、法改正の展望を探る座談会の記録と、最終的な提言も興味深い。

引き続き、マイペースに読み込んでいくとして、特に興味深い記述について、抜粋しておく。

まず、アメリカの実情については棚村政行教授と棚瀬一代教授が報告しているが、今回は、棚瀬教授が指摘していた1970年代における論争について。単独監護から共同監護への議論が、今日本においても50年近く遅れながらもようやく沸きだしたといえるため、参考になると考える。

母親優先原則が事実上非常に根強かった1970年代・・面接交渉権についての論争・・・日本も裁判所関係者の間では・・・よく知られている。まず・・・罰金や拘禁といった法的制裁を加えてまで履行しようとする面接交渉のあり方はおかしいのではないかという問題提起・・・これに対する反論として・・・裁判官の意見・・・「両親が別居して、監護権が一方の親に委ねられている時には、面接交渉権は注意深く保護されなくてはならない。なぜなら、監護権を持つ親は自分の有利な地位を利用して、他の親に対する子どもの愛情を遠ざける危険性があるからだ。」・・・離婚家族を対象とする実証研究の結果もまた・・・強力な反論となった。・・・実証研究の中で、離婚した60家族の子ども131人にそれぞれ2時間から4時間にわたる丹念な半構造化面接を行い、親の離婚に対する子どもの気持ちの詳細な聞き取り調査をしている。その結果・・・、両親が離婚した後の子どもと両親の頻繁かつ継続的な接触の重要性、特に父親と「良い関係」を継続することの子どもの精神的な健康にとっての決定的な重要性を指摘するとともに、離婚後の監護形式というのは母親に単独監護権そして父親に相当なる面接交渉権をといった単一の形である必要はなく、離婚当事者の事情に応じて柔軟かつ多様な取り決めがあってしかるべきだと主張した。・・・アメリカにおいては1970年代はフェミニズム運動の影響もあって、子育てに両親が関わっていくという方向に社会意識も大きく変わってきた。・・・

少し、ページを遡ってみる。

・・・母親優先原則の下で事実上どのような監護の形式がとられていたかと言うと、母親が85%の場合に、父親が10%ぐらいの場合に、単独監護権を得ていた。この割合は、今の日本の実情と似ているが、アメリカでは、その当時でも、非監護親である父親(あるいは母親)には「相当なる面接交渉権」というものが、非常に強い法的な権利として与えられていた。・・・、1970年代になるとフェミニズム運動が力をえて、また男性の中にも母親ばかりを優先するのは法による性差別だという動きもあって、1970年代にまずカリフォルニア州で母親優先原則が放棄され、代わって性的に中立な「子の最善の利益基準」が採用された。・・・

ここでいう「単独監護権」が単純に、日本の「単独親権」に該当するといっていいようである。単独親権制は性差別であると指摘できよう。

興味深いので、続く先も引用する。

 法律上は、離婚後の監護権者は性的に中立に決めればいいと宣言されたにもかかわらず、事実上、母親優先原則が揺らがなかった・・・。その原因としては、・・・そもそも父親は、子どもが幼い時には監護権を望まなかった。加えて同胞不分離の原則があり、一番下の子どもの監護権が母親にいくと、父親が小学生や中学生の子どもの監護権を望んでも、子ども全員の監護権が母親にいってしまうことになる。・・・父親が子どもの監護権を裁判で争いたいと弁護士に相談しても、3歳以下の子どもが一人でもいる場合には、勝ち目はないと助言され、泣く泣くあきらめる父親が多かった。・・・しかし、この法律の変化がまったく無意味だったかというと決してそうではなかった。弁護士の勝ち目がないとの助言にもかかわらず敢えて裁判で争った場合には、勝訴する父親が増えてきたのだ。

 時は、男性の育休の「義務化」が話題になっている。男女ともに育児(家事も)を分担していこうという価値観が一般にもなじみ始めている。母親だけが育児を全面的に分担しておけばよいという発想は忌避され始めている。専業主婦であったとしても、だ。

フェミニストを名乗った運動ではないかもしれないが、男性の育休問題に象徴されるムーブメントは、日本のフェミニズム運動といってよいだろう。親権制の見直しも不可避であろう。あえて避けようとするのであれば、それは、男性による育児の分担も促進されることはないともいえる。男性の育休取得率が6%代にとどまっている実態を決して歓迎しているわけではないはずだ。

国際比較の報告については、ドイツに関する報告者の一人である鈴木博人教授が、「子どもの権利条約について触れておかなくてはならない」という指摘が目に留まる。という指摘が目に留まる。

ドイツ法では、この条約の存在が民法改正を必要とした大きな要素になっている。また、ドイツで日本民法上の子をめぐる各制度を説明すると必ずといっていいほど出される質問は、「日本は子どもの権利条約を批准していないのですね?」というものである。つまり、日本民法は、何故子どもの権利条約を軽視もしくは無視しているのだろうかということである。

韓国の実情についての特別寄稿が同書に掲載され、その結語も興味深く刺さる。

子は父母の離婚の前後を問わず、父母の監護を受け、健やかに成長しなければならない。親の離婚という非正常な状況が発生したからといって、養育環境が変わってはならない。親が離婚後にも子に対する監護養育義務・・・に忠実ならば、子の保護に大きな困難は発生することはない。法理上は、離婚後における共同養育・共同親権も可能ではあるが、それが常に子の福祉を担保することができるとは限らない。・・・離婚を予防するためには、離婚前相談を受けることができるようにするなど、離婚調停を内実のあるものとするための必要な措置を講じ、離婚の意思が固まった家族に対しては、家族が子の養育、財産、情緒などの諸般の問題の手助けとなる支援サービスを提供するとともに、離婚家族については、養育費に対する執行力の実効性を強化し、その適用対象を拡大しなければならない・・・。・・・協議離婚時の相談の勧告、熟慮期間の経過、養育協議書と親権者指定協議書の提出の義務化、補正命令や職権による訂正など・・・。・・・協議離婚制度を改善するより、子の保護だけではなく、準備のない離婚および離婚による被害を最小化するためには、協議離婚制度と裁判離婚制度とを一元化することが望ましく・・・。・・・そのためには、まず別居制度の導入破綻主義への転換を検討しなければならない・・・。

国際比較というとき、つい欧米諸国の制度の紹介が先行しがちだ。しかし、アジア諸国においても、親権制度の見直しが進んでおり、韓国は、戸籍制度を改めたことも含め、急進的に家族の問題に対策を講じていることがうかがえる。万事解決したという楽観的な話ではなく、常によりよい制度に向けて模索する努力を続けることが大切なのだと学ぶのである。

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