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音読は楽しく可笑しく読みましょう

子どもの宿題を見るのは正直めんどくさい。
小3の次男は、テレビもマンガもゲームも大好きだ。一刻も早く宿題を終わらせてテレビが見たい次男の字はきたない、というか雑。漢字は泳ぎまくって象形文字みたいだし、数字は平仮名との識別が難しい。
できた!と言ってテレビのリモコンに飛びつく次男を捕まえ書き直させる。
「またぁぁ??」とうんざり顔で見返されるが、こっちのセリフだよ。

宿題の中で一つだけ楽しみなことがある。

音読だ。
次男は声が通るし感情を込めるのが上手なので聞いてて楽しい。自分の教科書にも載っていた話を聞くと懐かしい。
メロスは相変わらず怒っているし、スーホの馬頭琴は今聞いても切ない。
「ふたりはともだち」のがまくんとかえるくんの話は大人になってから聞くと味わい深いものがある。

6月
妻の仕事がピークだった。
早出をしても追いつかず、家に持ち帰って仕事をする日も多かった。ある日、晩御飯が終わるとすぐに妻がリビングのソファでPCを開き仕事を再開させた。難しい案件なのか表情も硬くキーボードの打音からもイライラが伝わってくる。
こんなときは何も言わないのが一番。
僕は黙々と皿洗いをしながら次の日の仕事のことを考えていた。

歯磨きが終わり、あとは寝るだけの次男が妻の隣にちょこんと座った。
カチカチとPCを操作する妻の横顔を覗くが、妻は一瞥もしない。すっかり仕事モードに戻ってしまったようだ。


突然
静かに、よどみない、まっすぐな声で次男が音読を始めた。

どうしてあんなこと言うんだろ?

どうやら妻のメールを読みだしたようだ。
妻が苦笑いしながらキーボードを叩く。

あ れ じゃ み ん な つ い て こ な い よ ね。

一字一句区切りながら普段の音読よりもハキハキと言う。シンクで笑い出した僕の様子をみて次男の音読に熱が入る。次男は笑いにどん欲だ。人を笑わせるのが大好きだ。

田〇さんが言いたいこともわかるけど、あの〇〇は、〇木さんがやるべきだと思う。

小3が読める漢字は限りがあるから自然とピー音が入る。
「あの〇〇」ってなんだろう!?
僕は気になって皿を洗うのを止めた。妻は既に笑い転げている。

あの〇〇はうちの部の〇〇〇だ!って言うけど、部長は〇〇のこと知ってるのかな?


ピー音だらけで訳がわからない。でも部長は読めるんだ、と僕は密かに感心してしまった。

やんなっちゃうね

感情たっぷりの音読に妻も僕も大笑い。ウケた笑いは二度、三度と繰り返すのが鉄則だ。
次男がたたみかける。

やんなっちゃうね♥(明るく可愛らしく)
やんなっちゃうね~(バリトン風の低音)
やんなっちゃうの?(勝手に疑問形に変換)

思わず僕も「やんなっちゃうの?」と便乗した。
うるさいっ!と笑顔で振り返った妻の顔を見ながら「もう寝な~」と僕は次男に声をかける。


ご機嫌で次男が階段を上がっていく。
妻の打音も穏やかになった。
僕は皿洗いを再開し、週末は何をしようか考える。

次男のいたずら心が家の空気を変えてくれた。





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