5a-オトナの研究

【連載】アンケート調査の基礎(第11回)回帰分析によって複雑な現象を切り取る

金曜日は「オトナの研究」のサブテーマとして「アンケート調査の基礎」の連載をしています。定期購読者が増えるたびに、感謝を込めてその日の記事を全文公開にしています。

前回は2つの変数の関係を見るために、散布図を作りました。散布図の全体的なプロットを見ると、2つの変数の関係が読み取れます。もしプロットが右上がりになっていれば、1つの変数が大きくなるにつれてもう1つの変数も大きくなります。これを正の相関と呼びました。もしプロットが右下がりであれば負の相関です。

この相関の強さを数字で表すことができると便利です。相関の強さを表す数値が「相関係数」です。相関係数は、-1から0を通って+1までの値をとります。相関係数がマイナスのときは負の相関で、プラスのときは正の相関です。相関係数がゼロに近いとき無相関となり、2つの変数にほぼ関係がないということになります。

相関の考え方を使って、たとえば、大学満足度全体をサークルの満足度でどれくらい予測できるかを検討できます。言い方を変えれば、大学満足度のうちサークル満足度はどれくらい寄与しているかということです。それ「単回帰分析」と呼びます。

相関と回帰の区別は次のとおりです。相関は、2つの変数を対等に見て、その関係を表すことです。一方、回帰は1つの変数(独立変数/説明変数)がもう1つの変数(従属変数/目的変数)をどれくらい予測できるかということです。

単回帰分析の「単」とは1つということです。この例でいうと、サークル満足度という1つの説明変数で、大学満足度という目的変数を予測しようということです。

そうすると、サークル満足度だけでなく学習環境満足度も説明変数として追加すれば、もっと正確に大学満足度を予測できるかもしれません。このように説明変数が2つ以上のとき、「重回帰分析」と呼びます。「重」とは複数という意味です。

ブラッド・ピット主演の「マネーボール」という映画はアメリカ大リーグの弱小チームを優勝まで立て直したマネジャーの物語です。このマネジャーの採用した考え方は、SABRmetrics(セイバーメトリクス)と呼ばれている統計学的な考え方です。

セイバーメトリクスでは、野球の多種多様なデータを使って、勝率という目的変数を予測する説明変数は何が効いているのかという分析をしました。ちょうど重回帰分析の考え方に相当します。分析の結果、重要な説明変数は、出塁率、長打率、選球眼といった変数でした。一方、重要でない説明変数は、バント数、盗塁数、打点などでした。

この分析結果から、リスクを取ってバントや盗塁をしてランナーを進めるよりは、バッターに自由に打たせる方がいいという結論が得られます。そしてその方針を取ることで、弱小チームが優勝まで至るのです。セイバーメトリクスは、それまで野球の常識であったランナーが出たら必ずバントや盗塁をするという戦略を根底から見直すことになりました。

このように統計学的な分析の目を持つことで、複雑な現象を切り込んでいくことができます。それによって現象に対する新しい見方やこれまでと違う戦略を考えることができます。

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