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【切抜】オンライン授業は不十分な対面授業ではない

2024年3月26日(火)

火曜日は「ファーストコンタクト」のお気に入りの過去記事を切り抜いてお届けしています。

2020年4月21日

先日、コロナの状況下でのオンライン授業についての質問が2つ届きました。こんな質問です。

[Q1] 今般の新型コロナ対策による教育機関の休校状況について、教育工学の蓄積から先行研究を踏まえてこれからの展望を自分たちで考えていくのに、参考になりそうな文献はありますでしょうか?もし心当たりがあればご教示ください。

マシュマロはデフォルトでは回答文が100字に限定されていますので、回答を短くするのに苦労します(せめて200字あればうれしいのですけど)。そして、こんな回答を書きました。

[A1] 「オンラインコースの設計と実践」というトピックでの研究はたくさんあります。これからは対面授業の補完や拡張という文脈ではなくオンライン学習がメインになっていくでしょう。

もうひとつの質問はこれです。

[Q2] 先生が現時点で、オンライン授業の課題点と感じる部分はありますか?
その回答。

[A2] オンライン授業の問題点として、対面授業の問題以上のものはありません。オンラインでは、教員が提供した学習リソース、学習者の学習活動、それへのフィードバックがすべて可視化されますので、改善しかありません。

100字の回答文では、端的すぎて伝わりにくいと思います(私としては端的な回答は気に入っています)ので、ちょっと補足したいと思います。

これからオンライン学習は対面授業の補完や拡張ではなく、そのものがメインになっていく

2000年代に入ってから、インターネットが当たり前になり、その中で、教育の中にオンライン学習が入っていくという方向は確実なものとなりました。しかし、その進展はゆっくりとしたものでした。それでも、教育が対面授業からオンライン学習中心になるためのきっかけになったかもしれないブームはありました。

「反転授業」のブーム

ひとつは「反転授業」です。アメリカの高校の授業改善からスタートした反転授業は、まず授業の前の予習として先生が作った講義ビデオを生徒が視聴します。その上で、教室での授業は、実習や実験、討議などを中心とした活動、あるいは教員が個別指導をするための時間にするというものでした。

反転授業は、対面授業とオンライン学習を組み合わせた1つのパターンです。このような授業を、一般にブレンド型学習 (Blended Learning) と呼びます。反転授業、あるいは反転学習 (Flipped Learning) は、ブームとなり、日本でも数多くの実践が行われました。

私も大学で反転授業を2008年〜2010年に渡って実施しました。その実践の内容と評価については次の論文にまとめてあります。

向後 千春, 冨永 敦子, 石川 奈保子 (2012) 「大学におけるeラーニングとグループワークを組み合わせたブレンド型授業の設計と実践」日本教育工学会論文誌 36 巻 3 号 p. 281-290

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjet/36/3/36_KJ00008514505/_pdf/-char/ja

反転授業は2010年代に入って、中等教育を中心にたくさんの実践がされるようになりました。

MOOCのブーム

もうひとつは、MOOC(大規模オンライン公開コース)でした。そのスタートは、反転授業よりも早く、2001年にMITがオープンコースウエア (OCW) を公開したことに始まります。これによって、MITのほとんどの講義をインターネット経由で、どこでも無料で視聴できるようになりました。

MOOCはさらにこれを拡張して、オンラインによる大学のコースを無料で世界に提供しようとするものです。この流れをオープンエデュケーションと呼びます。日本では、JMOOC(日本オープンオンライン教育推進協議会)がたくさんのコースを無料で提供しています。

私も2015, 2016年にJMOOCの中で「しあわせに生きるための心理学 ~アドラー心理学入門~」を開講しました。2015年では2000人以上の人が受講しました。

現在もたくさんの大学がMOOCとして無料のオンラインコースを開いています。

このようにオンライン教育は既存の教育に浸透し、その可能性を広げてきました。しかし、教室での対面授業の位置づけは相変わらず揺らぐことなく、主流であり続けました。これは私にとっては不可解なことでした。

ちょっと長くなりましたので、ここで区切って続きはまた書くことにしましょう。

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