2-教える技術ヘッダ

子どもに挙手をさせなくても良い授業は作れる。

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小学校の研究授業を見せていただいて、気づいたことがあります。それは「挙手」という教室文化です。先生が「これ、わかるかな?」と子どもに聞いて、(わかっても、わからなくても)手を挙げて、先生が指名して答えるというパターンです。

この「挙手の文化」は日本の教室の中ではとても当たり前の光景です。多分欧米でもアジアでも中東でもアフリカの学校でもそうなのかもしれません。でもよくよく考えると不思議な習慣です。もし教師が児童が理解しているかどうかを確認したいなら、全員に聞いてみればいいですし、あるいはランダムに指名して聞いてみればすみます。いずれにしても、「発問して挙手させる」ことにそれほどの時間をかける必要はありません。逆に、挙手させることで、ゆっくりした子どもは考える時間が削られてしまいますし、何度も手を挙げているのになかなか当ててもらえない子どもは、無力感におちいってしまうのではないかと心配になります。

下の図に示したように、教室の授業は「発問/挙手/指名/発言/フィードバック」というサイクルが授業時間の要所要所に挟まれています。それが授業を進めるためのエンジンになっているように見えます。ですからここが先生の授業スキルの重要な部分なのです。指名された子どもが予期しない答えを出してきたときに、自分の授業のストーリーにどう当てはめていくかというようなことを瞬時に判断して、対応しなくてはなりません。これがうまくできるかどうかが教師の力量として見られます。同時に子どもたちもまた観察して、上手な先生であるかどうかを評価しているのです。それは先生にとってもプレッシャーとなります。

しかし、この挙手のサイクルをまったく使わなくても良い授業をすることができます。真ん中の図は、ガニエの9教授事象で組んだ授業の流れです。とてもシンプルです。途中に練習やテストが入っていますので、そのときに理解度を確認すればいいのです。また、一番下の図は、メリルの第一原理で組んだ授業です。「Problem - Activation - Demonstration - Application - Integration」でシンプルに進められます。

挙手のサイクルを使わない授業は、シンプルな構成により、より多くの時間を子どもの学習と評価と個別指導にあてることができます。そんなことを公開授業を見せていただきながら考えていました。

さて、挙手という教室文化がいつどうやって成立したのかを知りたくて、文献を探しました。すると下記の論文が見つかりました。非常に多くの示唆を与えてくれる論文です。公開されています。一読する価値があります。

榊原禎宏・森脇正博・西村府子 (2013) 教師はなぜ授業中の挙手を好むのか ―教師の思惑、子どもの都合― 京都教育大学教育実践研究紀要 第 13 号 223-232
http://ir.kyokyo-u.ac.jp/dspace/handle/123456789/7980

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