俺は学生時代に人生で３回だけ
アルバイトをしたことがある。

携帯電話もない３０年前の出来事だが
急に思い出したので記憶を記しておこ。

大学３年の時に家庭教師を始めた。

初めに期待を裏切るようだが
この仕事は結構長く続いた。

相手は某有名企業の御曹司
といっても小学６年生の男子だった。

彼は８０キロくらいの巨漢で
とても元気がよく
馴れ馴れしく
憎めない可愛いやつだった。

そして彼はお喋りが大好きだった。

勉強の質問には一切答えず
俺をシカトしっぱなしだが
プロレスの話をすると
率先してお喋りした。
＊小学生だろ

恥ずかしいくらいプロレス好きで
勉強中にプロレスごっこを何度も誘われた。

そもそも彼の家から
お呼びがかかったのも
知り合いの紹介だったが
大学の体育会系の
太った男性を
探していたのだという。

俺はその理由を初日で
わかることになる。

彼は10分くらい勉強すると
俺に向かって

彼「ねえ！ベッドに投げてよ！
       バックドロップして！」

俺「えっ！勉強中だから。
        問題できたら投げてあげるよ！」

彼はそれを聞いた瞬間
後ろのページの正解を
書き写していた。

俺は笑った。
俺の小さい時と同じだった。

俺は本気にしてなかったが
10分後勉強が終わって
彼があまりにしつこかったので
１度投げてあげた。

彼はもんのすごい喜んだ。

彼はまた投げてくれと言ってきた。

俺は彼の素晴らしい笑顔
が気に入り次第に何度も投げた。

しかし彼はものすごく大きかったから
かなり重たかった。

俺は彼をうまく投げるために
大学の筋トレルームのミラーの
前で何度も投げる動きを繰り返していた。

先輩「お前さっきから繰り返し
　　　そり投げみたいなことしてるけど何だ。
　　　ラグビーで使わないだろ・笑」

俺「は、はい！相手がタックル
　　きたらやろうかなと思って・笑」

先輩「まずお前はスクラムの一番前だから
　　　試合中にそり投げのチャンスは
　　　４年間に一回も無いからな・笑」

ソリストの俺はこの先輩に綺麗にお見舞いして
やろうかと思ったがお互い笑った。

そして毎回彼を投げ込んでいるうちに
俺はバックドロップの投げ方が見事なまでに
上手くなっていた。

彼もまた９５キロある俺を
必死に投げてきた。

俺「君は将来レスラーかなんか目指してんの？笑」

すると彼は真顔で大学生の俺に

小６「いや学校で友達投げたら
　　　問題になるからね。
　　　あと勉強嫌いだから
　　　ストレス発散したいしね・笑」

俺「いや小学生の君がストレスあるの？
　　大学生の俺を投げることが一番やばいだろ！
　　俺を投げてストレス発散やめい！」

俺と彼は笑った。

頭の悪い子だなと思った・笑

ある日彼のお婆さんが
部屋のドア越しに俺らの行動をじっと見ていた。

家政婦は見た！の市原悦子の
えぐい眼差しそのものだった。

俺はすぐさま呼び出された。

婆「先生！説明してくださいますか！」

俺「はい、もちろんです！
　　彼は投げられるのが好きで
　　勉強のご褒美に彼との約束で
　　いつもベッドに投げ込んでいます！
　　な！そうだよな！笑」

俺は笑いながら話していたが
お婆の激おこの鬼視線に
硬直することになる。

婆「先生！それは知ってます！
　　うちの孫が先生に投げられて
　　あちこち筋肉痛だと困ってるんですよ！」

俺もあなたの孫投げて重くて筋肉痛なんだよ！

と

言い返しそうになった。

俺は人類史上最も冷酷な
お婆の鬼鋭い視線にもはや１文字も
出てこなかった。

彼を呼んで同情を得ようとしたが
ふと気づくと彼は婆さんの
太ももにしっかりとしがみついていた。

俺「遊んでただけだよな！笑」

ガキ「お婆ちゃん！助けて・笑」

彼はしたたかだった。

俺はこの頭のいい

「くそガキが！」

と思った。

顔は笑いながらも小学生不信になった瞬間だった。

婆「先生！今日まで有難うございました。
　　今日で終わりです。これ今日のバイト代です！
　　あ、それからこれも差し上げます！」

とバイト代の他に茶封筒をもらった。

俺はこの２年間で培ったバイトを辞める際の
決め台詞

「こんなバイトこっちからやめますよ！」

を用意していた。

茶封筒にまさか孫を投げた訴状でも
入ってないだろうなと
びくつきながら開けた。

中に２万円が入っていた。

俺「こ、こちらは？なんでしょうか？」

お婆はゆっくりと黙って何度も頷きながら
両手の掌を俺に向けて

「おしまいください！」

の合図をしてきた。

俺は嬉しくてつい上から目線で

俺「綺麗なお金の使い方されますね・笑」

婆「な、ちょ、も、先生っ！」

お婆は鳩が豆鉄砲食らったように
この前代未聞の生意気な上から目線の言葉に
最も凍りついていた。

もうお分かりだろう！

そうだ！

俺は人生で初めて社会に出る前に
まさかの大学３年にして
初の退職金を頂いたのだった。

俺「いえ、そんな。こういうの困りますから！
　　俺はただ彼を一生懸命投げただけですから。
　　いや勉強を教え、、、」

お婆の鋭利で冷酷な視線はプーチンの
それにも似ていた。

俺はこんなの受け取れませんと
言いながら大至急茶封筒を懐にしまった。

俺はなんだか悲しくも嬉しかった。

あの時もし茶封筒が
２万円ではなく訴状だったら
俺はお婆と孫をそり投げ
間違いなく起訴されていただろう！

この事件はのちに俺の中で有名になったのは
いうまでもない。

結局俺は８０キロの
強烈に太った小学６年を
何度も投げて投げられ
勉強もろくに教えずにクビになり
お別れの退職金まで受け取ったのだ。

いつしか腕をあげた
綺麗なバックドロップでラグビー夏合宿の
同部屋の後輩さえも投げ込んでいた。

後輩は俺が寝付くまで部屋に
帰ってこなかった。

ぼっちだった。

いうまでもない。

しかし俺はなんだか人生初の
退職金が嬉しかった。

バイト開始から５日目の出来事だった。

ああ、そうだ！
クビなんか関係なかった！

俺はラグビー部の同期・後輩に報告した。

俺「今回５日間の短期バイト終了！
　　家庭教師やったけど志望校推薦もらえたよ！
　　ふーーーーっ！」

同期「いやお前その子の小学校ストレートで
　　大学までいける学校やん・笑
　　またクビにでもなったんだろ！」

俺はこの同期をグランドでかわいがった。

200％ご指摘のとおりだった。

俺「バレたか！ああ、そうだよ！クビにされたよ。
    でもお前らバイトで退職金もらったことあるか？」

俺は何を勘違いしたか偉そうだった！

皆偉そうだなと笑っていた。

一部の失笑していた後輩は
のちにグランドでたっぷりとかわいがってやった。

後でたい焼き1枚買い
７人の後輩で分けろと奢った。

後輩はこの理不尽を嫌った。
飴と鞭が釣り合ってなかった。

とにかく俺は

某有名企業御曹司で

８０キロの小学６年生を

投げ続けた結果

バイト５日目で

見事にクビになったのだ。

ただ５日クビにならなかった
自分を自分で褒めてあげた。

マラソンのメダリスト有森裕子さんのように
自分で自分を褒めた。

この教訓から学べることはこうだ！

１　顧客のニーズに全力で向き合え！
ビルゲイツやマーケティングの神様
コトラー先生も言っていた。

顧客が何を求めているのか？だ

そうだ！俺の顧客は
バックドロップを求めていたのだ。

顧客のニーズにきちんと答えていけば
５日間で退職金を手にすることできる。

やめい！

２　ニーズは徹底的に深掘りしろ！

俺は顧客のニーズをよりうまく達成するために
綺麗に投げる体の使い方まで筋トレルームで行った。

彼にきちんとした受け身の仕方まで
教えていたのだ

全て巨漢小学生のニーズに
きちんと答えるためだった。

自分の芯を貫け！ぶれるな！

婆さんが隙間からのぞいて見ていようが
関係ない！

今から考えると募集要項は

「１週間限定！甘えん坊の太った
巨漢小学生を投げ続けるバイトくん募集っ！」

でよかっただろ！笑

＊人生３種類のバイト結果

１,２年次２日間0円
３年次５日間数万

働いた合計７日間
給与/数万円（退職金込み）

おそらくバイト史上
最も稼げないやつだ・笑

とにかく俺は大学卒業後
社会不適格合者として
ものすごく不安な状態で
社会に出て行ったのはゆうまでもない！

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