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知的な「オルガン付き」に不完全燃焼 ピエール・ブリューズ/東京交響楽団

ミューザ川崎で、東京交響楽団の「名曲全集」を聴いた。

ドビュッシー/ビュッセル編:小組曲
サン=サーンス:ヴァイオリン協奏曲 第3番 ロ短調 op.61
【ソリストのアンコール】
クライスラー:レチタティーヴォとスケルツォ・カプリース op.6

サン=サーンス:交響曲 第3番 ハ短調 op.78 「オルガン付き」

指揮:ピエール・ブリューズ
ヴァイオリン:MINAMI (吉田南)
オルガン:大木麻理

この「名曲全集」、初めて行ったかもしれないが、ミューザ川崎と東響の共催のため、障害者割引はなし(ミューザはん…😵

さて、指揮者のブリューズはトゥールーズ室内管弦楽団のコンサートマスターとして活動した後、名教師として知られるヨルマ・パヌラ(サロネン、サラステ、オラモ、ヴァンスカ、マケラらを育て上げた)に師事。指揮者に転身した。

現在、デンマークのオーデンセ交響楽団の首席指揮者と現代音楽専門のアンサンブル・アンテルコンタンポランの音楽監督(ブリューズの三代前の音楽監督が東響音楽監督のジョナサン・ノット)を務めている。今公演で日本デビュー。

大木さんのみ、先日のノット/東響のブルックナー1番のときにリゲティの「ハンガリアン・ロック」で聴いたことがある。他の二人は初聴き。

結論から言うと、ドビュッシーが一番よかった。
「オルガン付き」は第2楽章後半にがっかりしてしまった(大木さんのせいではない)。

さて、ドビュッシーの感想から。

ブリューズの指揮は両手の使い方が非常に柔らかい。
冒頭、優雅な身振りで指揮するお髭のおじさま(鼻から下がすべて口髭という見事な髭オジ)を見て、懐かしのヒゲダンスを思い出してしまった😅

肘の関節が柔らかいのか、山田一雄の角ばった指揮とは真逆のふわふわ〜ふわふわ〜な指揮。まるで綿あめかソフトクリームのようだ。

初共演の東響からノットとは完全に別の音色を引き出していて、凄いと思った。

ノットはシャープで高密度な音楽作りだと思うが、ブリューズはもっと隙間がある。

音楽の建築物を建てるのでも、ふわっと積み上げてる感じ。隙間にキツキツに詰め込まない。

そのふわふわ感が一番功を奏したのがドビュッシーだった。

水彩で描かれた淡い風景画。薄い色合いだが、色彩はしっかり感じられた。

東響の顔とも言えるフルートの相澤さん、今日もかっこよかったです(渋オジの色気と抜群の安定感がありますね。毎回目が行ってしまいます😅)。

続いて、サン=サーンスのヴァイオリン協奏曲第3番。
名曲ではあるが、昔にチョン・キョンファのCDで聴いたくらいで、実演は初。曲自体も全然聴いてなかった。

第2楽章を聴いて、「あ、この曲か!」と思ったが、MINAMIさんの表現がおそらく一番よかったその楽章で、1階席のセンターから鼻を啜る音が楽章の2/3以上ものあいだ聞こえて完全に白けてしまった。
こういうアタオカは万死に値する😇

順番は前後するが、第1楽章でMINAMIさんが弾き出したときに、音が小さい!と思ってしまった。

スケールも小さい。ミューザで弾くソリストのスケールではない。まるでコンマスのソロだ。

事実、MINAMIさんはオーケストラとの調和を一番に考えて、自分が前へ前へ出るのを躊躇したのかもしれないが、ソリストはもっと前に出ていいのである。

ブリューズがそんな控えめなMINAMIのサポートに完全に徹していたのは好感だったが、全体的にこじんまりまとまった音楽になってしまった。

ソリストはもっと自分の世界観を誇示していいのだ。
それでこそ、指揮者もオーケストラも必死になって食らいついてサポートしようというもの。

アンコールも拍手喝采だったが、スケールの小ささは如何ともしがたかった。
室内楽ホールでヴァイオリンの小品を聴いたら印象が変わっていたかもしれない。

まだ音楽院や音大に在籍中の学生さんでもあるから、今後に期待したい。

音色や弾き方が真面目で、直向きなのはすごく伝わった。
音に人格って出ますね😊

さて、メインの「オルガン付き」。生で聴くのはほぼ初めて(おそらく大昔にオペラシティで、大野和士/リヨン歌劇場管弦楽団で聴いたはずだが覚えてない😂)。

この曲もやはりふわっとした指揮で、音を詰め込みすぎず、隙間を感じさせる積み上げ方。

この曲の初演は成功し、指揮も務めたサン=サーンスは「フランスのベートーヴェン」と称えられたそうだが、ブリューズの音楽はベートーヴェンというには薄味で淡白だった。

がっかりしたのは第2楽章の後半。パイプオルガンが重厚なサウンドで加わり、荘厳さがホールを満たして始まるが、ブリューズは本来盛り上がるはずの中間部であえてテンポを落とし、オケをコントロールするので、その知的とも抑制的とも言える音楽は私にはひどくつまらなく感じられた。

ここはノセダ/N響の「運命」のように熱情をほとばしらせてやってほしい。
楽団員も大木さんもあえて音楽に没入せず、冷めて弾いてるように見えた(指揮者の意向だから仕方ない)。
それでは聴衆がのめり込むような音楽にはなりえない。

これほどパッショネートに書かれた音楽をよくもまあ法定速度遵守して時速40kmくらいでドライブするもんだ😅

音楽に限らず、芸術ははみ出してナンボでは?
私は160kmくらいで爆走する「オルガン付き」が聴きたかった……😞

ノットとは別の音色をオケから引き出していたり、ブリューズの才能は感じたが、「オルガン付き」を知的にコントロールして披露した意図が私にはわからなかった。

例えば、ベートーヴェンの「エロイカ」や「運命」をじっくりしたテンポでやってスケール感を出すやり方もあるだろうが、それはドイツのオーケストラとかで音の密度が詰まっていればの話。

今日の東響は終始ふわふわしたサウンドだったので、そんな状態のままたっぷりしたテンポで演奏したところで重厚感は出ない。

大興奮の「オルガン付き」を期待していただけに、肩透かしを食った。
芸術家は必ずしも聴衆の予想通りに振る舞わなくてよいが、「予想は裏切り、期待以上のものを味わわせる」が最上ではなかろうか。

久しぶりに来たミューザ川崎はやはり素晴らしかった。家からの遠さを除けば、一番好きなホールかもしれない。

ホール内の景色が芸術的。サントリーホールはそんな感じがしない。
ミューザは螺旋状になっていて、音響もいいし、ほんとにいいホールだなぁ。
7月のタリス・スコラーズはオペラシティよりミューザで聴くべきかも😅

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