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金色の鳳凰の飛翔 青木尚佳のイザイ無伴奏全曲

紀尾井ホールで、青木尚佳のリサイタルを聴いてきた。

イザイ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ op.27(全曲)

第1番ト短調
No. 1 in G minor [to Joseph Szigeti]
第2番イ短調
No. 2 in A minor [to Jacques Thibaud]
第3番ニ短調〈バラード〉
No. 3 in D minor “Ballade” [to George Enescu]
第4番ホ短調
No. 4 in E minor [to Fritz Kreisler]
第5番ト長調
No. 5 in G major [to Mathieu Crickboom]
第6番ホ長調
No. 6 in E major [to Manuel Quiroga]

このコンサートは行くか迷っていた。A席3500円だから全然高くないのだが、最近コンサート行きまくってて、節制しないといけなかったのだ😅

バルコニーの1列目で見るのは譲れなかったので、そのあたりが完売する前に何とかゲット。

客席は7割くらいだろうか。結構空席が目立った。

開演前にフォロワーのtyashiさんとはじめましてのお喋り。メネセスとの2ショットを見せてもらったり、楽しいひとときでした☺️

N響のコンマス、郷古廉さんを見かける。終演後にはヴァイオリニストの荒井里桜さんを見かけたし、結構関係者が来てたのかも😅(荒井さんも近々聴きたいものだ)

演奏が始まって、すぐにいいコンサートになるとわかった。

コンサートの出来不出来は最初の数秒でわかる、というのが私の持論。

素晴らしいコンサートには新鮮な驚きがあるのだ。

今まで体感したことのない感覚。

反対に散々聴き飽きた演奏の再現もある。大野和士/都響のブラームス2番なんかまさにそんな感じ(教科書的、というやつだ)。

青木尚佳が奏でる音楽には、彼女の歌を感じる。表現したいことを持っている。

まるで彼女が歌っているのを聴いてるようだった。

こうなると大船に乗ったような安心感がある。
演奏会の成功は約束されたも同然。美音に酔いしれるばかり。

青木尚佳の音色を形容するなら、艶やか、伸びやか、凛々しい、エレガント、ブリリアント。そんな感じか。

31歳で初の無伴奏リサイタルらしい。実力を考えれば遅すぎる。
文字通り「満を持して」ということなのだろう。

ちなみに2014年、ロン=ティボー=クレスパン国際コンクールで第2位だった彼女は、2016年の仙台国際音楽コンクールでは第3位に甘んじている。

これは相当屈辱だったのか、公式HPにこそ記載されているものの、今回のプログラムのプロフィールに「仙台国際音楽コンクール」の文字はない。

ベートーヴェンとテレマンをぜひ聴いてみたいと思った。

ベートーヴェンの協奏曲はヴァイオリン協奏曲の中では異例の長さで知られる。

私見だが、この曲を心地よく聴かせるにはまず音色が美しいこと、そして自分の歌い回しを持っていることが不可欠だと思う。

これらがないと冗長に聴こえて退屈するだけだ。
青木さんはどちらも十分に兼ね備えている。

テレマンの「無伴奏ヴァイオリンのための12の幻想曲」はバッハやイザイの無伴奏に匹敵する超名曲。
死ぬまでに青木さんで全曲リサイタルを聴きたい。

青木さんは例えば第4番のロングトーンですら、艶やかにブリリアントに奏でる。真に自分の音を持った音楽家だ。

充実しきった音色。太い樹木の幹のような質感だった。

イザイの無伴奏全曲は過去に一度、アリーナ・イブラギモヴァで聴いた(所沢ミューズ、キューブホール)。

そのときは難解で晦渋な曲という印象が強かった。
バッハと違い、自分の感情を乗せられない曲だと感じた。

それが今日は、曲の魅力がとてもわかりやすかった。
青木さんの弾き方のせいもあるのだろうが(彼女の解釈が曲の本質を捉えていたということだろう)、自分の耳と心が育ったようで嬉しい。

第6番はヒラリー・ハーンのCDで最近聴いて、そのストイックなエレガントさに心を射抜かれたが、青木さんも凄かった。

わずか7分の単一楽章の曲だが、中身は詰まっている。
世界を映し出す万華鏡のように、音の色彩は目まぐるしく変わる。

今後コンサートミストレスとして、ソリストとして、大きな飛躍を遂げるであろう青木尚佳。
「初の無伴奏リサイタル」はもう二度と聴けない。今回限りの贅沢な体験だ。

曲が閉じるころには、金色の鳳凰が大きな翼を広げて飛翔していくのが私の目に映った。

ピアニストの奥井紫麻と同様、青木尚佳もいっぺんに好きになってしまった。もはや「推し」である😅

曲中に話し声が聞こえたり、大きな荷物が落下する音が響いたが、演奏終了後の拍手は絶妙なタイミング。どれもヴァイオリニストの弓が動いてからの拍手だった。

なんとスピーチがあった。

「ヴァイオリン仲間から『無伴奏は自由だよ』と『無伴奏は孤独だよ』と聞いていたのですが、孤独ではなくそれなりに自由に弾けたと思います笑」

で、大きな拍手。

「いろいろありましたが笑、何とか最後まで弾けてよかったです」

と言っていたのは客席のノイズのことだろうか。彼女自身には事故はなかったと思う。

主催者や紀尾井ホールの関係者、聴衆にお礼を述べ、

「皆さま、よいクリスマス、よい年末年始をお過ごしください」

で締める、簡潔で心のこもったスピーチだった。

私はコンサートに基本スピーチはいらないと思っているのだが、こういった節目のコンサートでスピーチをする意義を感じた。話しぶりに誠実な人柄が窺えた。

それにしても、海外生活の長い音楽家は日本語が英語風の発音になりますね😅 
内田光子や庄司紗矢香もそんな感じですからね😁

今日が今年最後のコンサート。昨日はトップスのチョコレートケーキで一足早いクリスマスを終え😅、今度の土曜にはこれまた一足早い年越し蕎麦😅

今年もいろいろあったけど、盛りだくさんの充実した一年でした。

近々「2023年芸術鑑賞回顧」を書きます。

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