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幽霊への道


歩く時に前を見ないのは、小さい頃からの癖だった。

前を見て歩かないから道に迷うのよと、母さんからよく言われていたのを思い出す。

それから、みんなとはぐれてしまうのもそのせいだと。

小さい頃は母さんや誰か、他の人がよく僕の手を握りながら歩いていた。

僕が迷子にならないように。

でも体が大きくなるにつれて、誰もそんなことはしなくなる。

それもそのはず。

僕は体が大きくなりすぎていたし、容姿も中の下……いや、下の中くらいだ。

誰も触りたくもなければお近づきにもなりたくはないだろう。

前を見ないで歩く癖はなくならなかったし、今も続いている。

別にもう僕が道に迷うことやはぐれることなど、誰も気にはしない。

気にする人間はもうこの世界に誰も残っていないし、僕自身、僕がどうなろうが知ったことではない。

それでも僕がまだ歩き続けているのは、何か理由があるのだろうか。

上を見ながら、左右を見ながら、下を見ながら歩き続ける。

たまに周りで誰かの声がする。

でも構わずに歩き続ける。




月が真上に上がっている頃、不意に左腕を誰かに掴まれて歩くのを止めた。

あなた、こんな夜中に森に入るつもり?

死ぬわよ

そっけない温度の声。

きっと女性。

僕は声のした方を見ないで、そのまま下を向いたまま進もうとする。

でも左腕が掴まれたままで進めない。

僕が三回くらい、そのまま進もうと試みると不意に腕が軽くなる。

進めるようになったので、僕はまた歩き始める。

後ろでまた声がする。

死にたいならご自由に

でも『わたしたち』に迷惑のかからないようにしてちょうだい

何を言われているのかはわからない。

声を無視して僕は歩き続ける。

もちろん、前は見ない。

どこか遠くの方から懐かしい声がする。




言ったでしょう

前を見ないで歩くから、迷子になるの

みんなとはぐれてしまうのよって






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