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夏が終わる。

最近、蝉の声を聞かなくなった

少し前までは耳が痛い程に鳴く蝉達の声は、夏の暑さも混じって少し鬱陶しく思う反面、どこか嬉しくも思っていた

いつも歩くこの通勤路も夏の間は少しだけワクワクしながら歩いていた

私はどこにもでいるOLってやつ。社会人になり、都会にやってきた
今まで実家暮らしの何不自由のない生活を送ってきたのだが、突然それが退屈に思い、知り合いなんて誰もいない場所へたった一人で自分の力だけで生きてみたいと思い、都会への就職を決めた
案外就職活動は上手くいき、労働条件も良くそこそこ給料も良いところへ就職出来る事になった


先週の土曜日の事
実家に帰省した際に、自分の部屋の荷物をこちらへ送った。中身を整理しながら卒業アルバムや漫画に一通り目を通す

学生時代は同じ年に生まれたってだけでひとまとまりにされ、みんなで頑張りましょう、友達を沢山作りましょうなんて言われる
私は昔からどこか大人びていて、同級生と話が合わなかった、その為良く何を言ってるのか分からないとか、変な子だと言われてきた、
しかし、思春期にもなるとやはり、嫌われる事を怖がり周りの子に合わせて、おんなじ格好をしたりめんどくさいスクールカーストとかいうものの上位に組み込まれるよう人の事を平気で傷付けたりもしてきた
そして、話し方も見た目も、人気のある女の子を良く観察し真似ていった

そのせいで20歳になる頃には自分がどんな人間だったのかなんて忘れてしまった


こちらに来てからはというと、思った程の苦労もなかった
家事は少し大変だったが、慣れると仕事と同じ
ただ必要な事をこなすだけ
仕事上でも嫌味な先輩がいると思いきや、案外親切な人も多い
学生時代苦手だった、コミュニケーションも上手く取れるようになり、気兼ねなくランチに行ける同僚までいる
社会ってのは案外面白い
年齢も性別もバラバラで、昔、学校で感じていた窮屈さは微塵もなかった
職場に歳上の人間が多いというのが、私には居心地が良かったのかもしれない


それでも突然、空虚に襲われる事がある
過去に積み上げてきたものなんてなくて、空っぽだったから

一人でいる夜があまりにも寂しくて、どこかに飲みにでも行こうかと思い、外に出る

しかし、人混みにも消耗されたくなくなって、コンビニでハイボールを2本買った

そして、酷く錆びついたシーソーがただ一つだけある公園のベンチに座る

夏も、もう時期終わってしまう


2本目のハイボールが半分になった頃、いつもより少しだけ温度の低い風が吹く
酔いが回り体温が上がっていた身体には気持ちが良かった

そして、自然と涙が溢れてきた

私はいつから、何を探しているのだろうか
どんなに考えたって答えの出ない疑問
自分がなにものなのかさえも分からずに探し続けてきた


幼い日、母親に言われた事がある
「虹の始まる場所には宝物が埋まっているのよ」

きっとあたしは、この都会の空の下が、虹の始まる場所だと思っていたんだ

この場所に本当の自分がいる
なんて、虚言にも似た昔のおまじないを信じて。





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