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『雪山の絆』現実からメッセージを引き出す手腕

『Society of the Snow』(2023年)★★★☆。

J.A.バヨナ監督作といえば、ディザスター・サスペンスが印象的。

タイでの津波被害を生き抜くイギリス人家族のドラマ『インポッシブル』は、津波の猛威で生き別れた家族が再会するまでの物語だった。水流や流木による怪我の仕方に至るまで生々しく描写した点が特徴的。タイで大勢が亡くなった天災をイギリス人視点で描くことに引っかかりはあるが。

『雪山の絆』はその手腕を存分に活かすディザスター・サスペンスであり、実話に基づく雪山遭難物語。

1972年、乗員乗客45人の民間人を乗せた空軍チャーター機がアンデス山脈で墜落事故を起こす。「ウルグアイ空軍機571便遭難事故」と呼ばれる事件はこれで数回目の映像化だ。膨大なリサーチをもとに出版された、パブロ・ヴィエルチ著の同名小説が原作。

まず導入が手早い。民間人45人の紹介は、乗客の大多数を占めたラグビーチームの練習風景に絞り、残りは空港でのチェックイン時のみ。

飛行機墜落までも手短か。航路の説明を当事者にさせたあとは、乗客同様にトラブルへ突入。気づいたら雪山の上だ。長尺の大半は生き残るためのステージを、経過日数を指折り数えながら追いかけていく。

寒さと吹雪への対処、死傷者への対応、事態の把握、体調の変化、そして相次ぐ自然の猛威。立て続けに事件を起こし、次々に倒れていく同胞を看取る。

食人による生き残りがプロットのカギとなることは、ここで隠しても仕方がない。モラルをどう乗り越えるか、それにより人がどう変わるのかの描写は丁寧だ。バヨナが賢いのは、死体、人肉、怪我やその他センシティブな小道具には絶妙なバランスでピントが外されていること。グロさを前面に押し出さず、キャラクターの心情面から気を散らさずに済む演出。

語り口にも精神性が一貫している。死者と生存者との違いを安直に2分しない努力も、ナレーターのセレクションで実を結ぶ。助かって終わり、というわけでもなく、生存の意味を問う余韻にも、しっかりと尺を割く。事件の重さを理解する作り手のアプローチだろう。

アカデミー賞外国語映画賞ノミネートに相応しい力作。J・A・バヨナは『ジュラシック・ワールド/炎の王国』よりも、こちらの方がよほど望ましい。

(鑑賞日:2024年1月12日 @Netflix)

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