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『グリーン・ナイト』:夢と現実を彷徨う神話

『The Green Knight』(2022)★★★★。

詩的で奇怪で強烈。アーサー王伝説のうちの一遍を、文字面の顛末を真水で辿りながら意味を持たせていくような構成。騎士見習いで王の甥っ子、ガウェインの成長を見届ける数章仕立ての物語。

まず最初のカットから技術面が目に飛び込んでくる。じっくりと引いていく窓からの眺めを、恐れずたっぷりと見せてからのテロップが大胆。撮影、美術、衣装の印象深さがいずれも出色。緑の騎士の出立も、馬上の威圧感で特に冴える。

中世の騎士役にインド系イギリス人のデヴ・パデルを据えていること自体にも驚きがあるが、見ていると違和感がなくしっくりくる。自然vs文明を描くテーマの中で、後者を象徴するアーサー王と王妃が病的な装いであることもじわりと沁みるディレクション。ショーン・ハリスから、アリシア・ヴィキャンデル、バリー・コーマン、ジョエル・エガートンなど、道すがら出会うキャラクターたちのパフォーマンスが軒並み良い。

物語は奇妙なことを隠さないのが不敵。「剣を交えるゲームで、自分がされたことを1年後にそっくり返すことが条件」と言われ、その騎士の首を刎ねたガウェインに「1年後、約束通り同じように貴様の首を刎ねよう」と言うゲームとは…ゲームなのか? ガウェインの母のまじないによる試練だと理解はするが解決方法があるようにも思えない。

一方ではっきりしているのは、道中出会う人々から課せられた「騎士の美徳」の試練に、主人公がことごとく落第していくこと。寛大さは示さないし、誘惑には負けるし、勇気は示さないし。その情けない姿を見つつも、終局での対面がどう展開するのか、想像がつかない点が良い。

裸の巨人たちが闊歩する高原でのシーンもまた、ファンタジーとホラーと時代モノの距離感を恐れず表現する絵作りで微笑む。

極め付けは締めくくりの言葉遊びだ。絶妙な閉じ方で余韻を残す。隠れた傑作。

(鑑賞日:2022年11月28日@TOHOシネマズ六本木ヒルズ)

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