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『アメリカン・フィクション』インテリが逆差別と衆愚に挑むとき

『American Fiction』(2023年)★★★・。

ハイブラウな映画だ。

物書きの苦悩、特に世間との感覚のズレを感じる男の憤りと、その私生活。そこへ一石を投じる行動が、思わぬ出来事のドミノ倒しを呼ぶという、シニカルなコメディ。

パーシヴァル・エヴェレットの2001年の小説『イレイジャー』を原作に、今をときめくライター、コード・ジェファーソンが監督デビューした本作。

これ、いくつかの映画を足して割ったかのような構造になっている。

アレクサンダー・ペイン『サイドウェイ』(2004)、メル・ブルックス『プロデューサーズ!』、ロバート・アルトマン『ザ・プレイヤー』(1992)。

世に受け入れられるアフリカ系アメリカ作品と、自身が描きたい作品とのギャップに苦しむ主人公の厭世的な態度や、その鬱憤を他者に当たることで晴らそうとする性格。それをウィットに富んだ掛け合いで軽妙に描いていく。ここまでお伝えすれば、リファレンスがわかる人なら自ずと筋書きがわかってくるはず。

小説家や物書き全般に携わる人物を描く物語は大抵、世間の好みやヒットの潮流とどう向き合うかが軸になるもの。だから、物語を語りたいと思う人なら少なからず共感する部分はあるだろう。

ただし、ジェフリー・ライト演じる通称モンク(文句ばかり言う主人公なのに、修行僧のように寡黙な仏頂面を貫くキャラクターとしては日本語的にも言い得て妙)は、アーティストとしての産みの苦しみよりも、生み出したものが喜ばれないことが壁になっているのがポイント。

彼は賢くて、書き切る能力もある。自分が人よりも優れていることは客観的にみても明らかで、無意識に感じているのは「みんな頭が悪すぎてムカつく」だ。そう言う意味で言えば、一般の鑑賞客から見たモンクへの共感度が、ちょっと低くても不思議はない。だってスノッブなんだもの、彼。

そんなお高くとまった主人公だから、見ていて嫌いになってもおかしくないのだけど。そうならないのが本作の強み。巻き込まれていく騒動が現代アメリカの構造的な差別問題をよく風刺しているものだから、つい頷いてしまうし、突拍子もないシチュエーションに笑ってしまう。

何より冒頭の1シーン目から、目を覆いたくなるようなモンクのキャラクター性が滲み出ている。脚本がシャープだ。

キャストも強い。弟役を演じるスターリング・K・ブラウンは特に光っているし、ライバル作家役のイッサ・レイの抑えた演技も、実力がわかる。撮影、美術や演出には目立って主張する技巧があるわけでないけれど、主演陣の手堅いパフォーマンスをじっくり見られるし、それだけで十分以上に満足できる。

意識の高さに引く層もいるかもしれないが、マイノリティから見たアメリカ社会の構造的な差別と不公平の実態をしっかりと突いてくる。見た目以上にスマートな一作だ。

(鑑賞日:2024年1月12日 @Regal Cinemas Edwards Aliso Viejo)

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