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ダークマター(暗黒物質)探求ものがたり#5(最終回)

前回の続きです。

改めて、ダークマターの捜査方針です。
1.既存の物質
2.未知の物質
3.1と2の混合
4.観測ミス
5.既存理論の修正

前回は、1の未発見の天体として「原始ブラックホール」だけがかろうじて候補として残っている、という話でした。今回は2と5の話です。(3と4は説明割愛)

未知の物質:素粒子の標準模型

我々が知る物質は、「素粒子の標準模型」から構成されます。例えば原子核にある陽子は、下図にある3種類のクォークから構成されます。

Wiki「素粒子の標準模型」

ただ、素粒子の標準模型には「重力」は除かれています。あまりにも3つの力より小さいからです。(数十桁のスケール!)

では、この17人のうち誰が犯人(ダークマター)なのか?

まず標的となったのはニュートリノ。電気的に中性で、かつ宇宙創成から存在し質量をもっているかも?と期待されていました。

そしてついに1998年に質量が計測されます。(日本の研究者の貢献)
早速ダークマターの観測値と比較すると、全くその総量に足らず却下となりました。(細かくは犯人は複数かもしれませんが)

ただ、ニュートリノは他の深遠な謎に絡む可能性は残っており、興味ある方は過去の投稿を参照ください。

ということで現時点では17人ともに主犯格としては却下となっています。

未知の物質:超対称性粒子を探せ

世の中には、4つの力が存在し、重力以外の3つは仮説を元に一応は説明されています。

その仮説の1つが「超対称性」を持つ粒子が存在する、というものです。

なかなかそそる言葉ですが、上述の17種類の粒子にはそれぞれあるルールに従う仮想の粒子が存在する、というものです。もう少し知りたい方のため、過去投稿を載せておきます。

そして、このまだ見つかっていない超対称性粒子群がダークマターではないか?という説です。(よくそれらをまとめて「ニュートラリーノ」と呼称)

20世紀から長年探していますが、現時点では見つかっていません。

ただ、次世代高エネルギー実験施設の計画もあり、可能性はゼロではないです。しかも、その有力候補は日本です。ぜひこちらをご覧ください。

未知の物質:物質の謎を埋め合わせる仮想粒子

もう1つの有力候補は、別の謎から派生して仮想的に提案された粒子です。

それは「反物質(通常物質で電荷だけ反転したもの)が自然に存在しない謎」のことです。

このアンバランスのために考案されたのが「CP対称性の破れ」といわれるものです。これ以上は過去にも触れたので詳細は割愛します。

CP対称性の破れは見つかりました。

が、なぜかその破れは部分的で、あるグループでは対称性は保存されたままです。

この対称性を維持する役割を担うのが仮想の粒子「Axion(アクシオン)」で、ダークマター候補でもあります。

こちらも現時点でまだ未発見ですが、日本含めて世界中で探索が続いています。

既存理論の修正:ダークマターは幻想である

さて、最後の「既存理論修正」です。

サブタイトルに刺激的なメッセージをいれましたが、相当ちゃぶ台をひっくり換えした議論です。

これにも、大小2つの仮説があります。

まず小さいほうから。
これはニュートン理論の修正を要請するもので「MOND(modified Newtonian dynamics)」と呼ばれます。ざっくりいうと、短距離は距離二乗に反比例するが、長距離では一乗に反比例するというものです。

が、これは反証も見つかっており、却下された状態です。

次に大きなものを。

何が大きいかというと、我々の知っている物質世界がイレギュラーな状態である、という考え方です。

「は?」ですね。(ここからは広い心でお読みください)

改めて、宇宙全体での物質(エネルギー)分布割合を載せておきます。

これを見る限り、主役は「ダークエネルギー」という宇宙全体に染みわたる謎の斥力です。

一見殺風景なダーク宇宙ですが、距離が遠くても「量子もつれ」に近い遠隔作用が存在します。量子もつれについては過去投稿に委ねます。

この宇宙空間を液体で満ちたコップと仮定すると、そこに出来た「だま」が我々の物質と位置付けます。

そして、この「だま」が先ほどの遠隔作用を邪魔し、そこから元に戻ろうとする反作用的な力が我々が「ダークマター」と呼ぶものです。

この一見奇抜な説を唱えたのは、エリック・ ヴァーリンデ氏。過去にも紹介したので、詳細はそちらで。

この説はまだ消えてはいませんが、既存の宇宙論の変革を要請するものです。


現時点においてもダークマターは見つかっていません。(たまに発見の噂を聞きますが証拠不十分)

今回紹介しきれなかった説も結構あります。(観測ミス説含めて)

お伝えしたいのは、
「ダークマターの探求は宇宙とそれを記述する物理学の探求に等しい」
ということです。

書いていて連想したのが数学の「フェルマーの最終定理」です。

たった1つの(一見簡単な)謎をめぐって350年以上も数学者が挑み続けて、ついに1995年に証明されました。そしてその過程で数学分野を横断して研究の原動力になりました。

ダークマターの探求も、物理学の諸分野を横断した可能性を押し広げようとしています。

えてしてこのような探求は「見つけてどうするの?」と言う突っ込みが避けられません。特に実験物理学はお金がかかります。。。

が、こういった営みが結果として人類の文明発展に貢献することは、歴史が示しています。


最後に、ダークマターの存在がささやかれて100年近くがたちます。
この宇宙最高級と言ってもよいミステリーを、ぜひこれからも楽しんでいきたいと思います。

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