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宇宙に広がった全固体電池

エネルギー問題とEV需要を受けて、備蓄を担う「電池」の需要は急速に高まっています。

電池の中で、以前から日本政府も注目していた「全固体電池」が宇宙にも活用される、というニュースが流れました。

ようは、
次世代電池として期待されている全固体電池を、ISSで充放電実験に成功し今後の活用が期待される、
という話です。

今回は、全固体電池の最新の研究について触れてみたいと思います。

まず、そもそもなぜ「全固体電池」が注目されているのか?

電池は1800年にボルタが発明し、実用性のある充電可能な二次電池(ダニエル電池と呼ばれます)は1836年のことです。

超ざっくりいうと、正と負の電極とその間を電気的につなぐ「電解質」という「液体」の構成です。

液体の欠点は、
「液漏れが起こる(安全性)」・「温度制限(暑すぎても寒すぎてもダメ)」・「寿命が短い」・「副反応が起こる」
などが挙げられます。
そこで、電解室をゲル状(糊状)にしてこぼれにくく乾かしたのが、馴染みの「乾電池」です。ただし、これは1次電池、つまり充電ができないという短所があります。

電磁誘導を実験で発見したマイケル・ファラデー氏が、硫化銀とフッ素鉛で固体電解質の可能性を見出したのですが(1831年ごろ)、特にそれ以降研究は進みませんでした。

ちなみに、スマホやPCにとってほぼ標準ともいえる「リチウム電池」の発明者は日本の吉野彰氏(ノーベル賞受賞)です。
基礎研究だけでなく、完成品としての電池市場では、日本は過去に世界シェア最大を誇っていましたが、今は中国系が参入し部品(電極材など)などでかろうじてキープしているという状況です。

そういった背景で、国としても、産業競争力を強化するため、電解質を固体化する二次電池には注力したいわけです。

上記の停滞期は長く続き、2017年にようやく、吉野氏のリチウム電池共同発明者でもあるグッドイナフ氏が、従来よりエネルギー容量が飛躍的に高まる全固体電池を発明し、ぐっと実用化が近づきます。

全固体の長所は、先ほど挙げた液体型の短所を解決できることです。
逆にその短所は、「電極と電解質での(界面)抵抗が強い」ことで、ようは液体よりも電気の素になるイオンが動きにくいことです。

その界面抵抗を大幅に下げることに成功した研究が、国内で発表されています。

ようは、
固体電解質と正極の間に極小の緩衝(バッファ)層を設けることで、抵抗値を2800分の1にできた、
という話です。

上記は、ある程度電解質の材料は硫化物系に定めてその極との接着方法に工夫を凝らしたケースです。

その「電解質」材料を探す方法に、コンピュータを活用する動きも進んでいます。

ようは、
役割と異なる2種類のAIと量子コンピュータ(アニーリング型)を使って、最適な電解質材料の組み合わせを探す、
という話です。
よく、マテリアルインフォマティクスと呼ばれる分野です。

さらには、その固体電解質内での「イオン電導性」を高めようという基礎研究でも興味深い研究が今年になって発表されています。

ようは、
従来の(H+)を使った電導でなく、(H–)を使って効果的な導電性を見出した、
という話です。

まだまだ基礎研究分野でもブレークスルーが起こる可能性はありそうです。

改めて注目が集まっている背景は、主にEV需要の高まりで、車であるためより安全かつ長期間使える充電池が求められていることです。
他にも、太陽光発電など分散型エネルギーが普及すると、例えば節電だけでなく、災害に備えた備蓄、などにも広がります。

そして、冒頭記事のように、対応温度幅が広がると、寒い宇宙でも適用可能になるというわけですね。

国家間の競争はともかく、全固体電池の普及が進むと我々のエネルギーを使った生活にも影響があるので、今後も注目していきたいと思います。

<主な参考リソース>

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