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仁科記念賞2023はニュートリノ研究者へ

今年も仁科記念賞が発表されました。

仁科記念賞とは、原子物理学で貢献した研究者に贈られるものです。昨年に解説した記事を参考までに引用しておきます。

それで2023年の受賞者の研究内容ですが、物質の存在に関する謎解明につながる「CP対称性の破れ」に関するものです。

物質」には、電荷だけ逆の「反物質」が理論的には存在し、実際に人工的にわずかながら生成することもできます。

頭を空っぽにして考えると、宇宙にとってプラスとマイナスを優劣付けることはしないはずなので、物質と反物質は同数あるほうが自然です。

でも、観測する限り宇宙には「反物質」が全く存在しない・・・。(繰り返しですが人工的には生成に成功済み)

この宇宙のビッグミステリーを解く有力仮説が「CP対称性の破れ」がおこったから、とするものです。
このあたりの歴史については、過去記事にもう少し深堀したので、これ以上関心のあるかたはそちらへ。

上記投稿内にも紹介していますが、ニュートリノ自体の発見とそれが科学に及ぼすインパクトについても、過去に書いた投稿があるので、関心もったかたはお楽しみください。決してタイトルは誇張ではないです。

で、前捌きを終えて今回の研究の位置づけを伝えると、その噂のCP対称性の破れの実験信頼性を高めた、というものです。

基本的に素粒子の性質を調べるのは、高いエネルギーを発生させるのですが、そのためには加速させるために長い距離が必要です。

で、今回の発表で添えられた図を引用します。

発表で使われた図

地下深くの300kmでニュートリノビームを発射して計測した、というなかなかそそる実験ですね☺

そもそもCP対称性は「ある程度」破られていることは分かっていました。今回の目的はその破れ方にも制約があり、定量的に突き止めたことにあります。

その制約ですが「CP位相角」と呼ばれます。

発表時の概要資料にその説明がありますが、ちょっと読み解きにくいので、えいやで言えば、発射したニュートリノは途中で変化するのですが、その度合いを示す値のようです。

今回の受賞につながる2020年の発表記事を1つ引用しておきます。

Nature誌での投稿はこちら。

位相角の詳細はともかく、今回の研究の意義は、「CP対称性の破れ」の確からしさを定量的に評価したことで、素人目に見ても意義がありそうです。

近年は、人類の叡智の1つ「素粒子標準模型」の綻びが話題になっています。

あくまで「模型」(格上げされると「理論」と呼称。ただし組織・個人によっては素粒子標準理論と呼ばれるほど曖昧です^^)なので、綻びはむしろ改善の種として歓迎すべきことですが、綻びを見つけるためには今回のような実験精度を高める営みが裏方として活躍しています。

改めて受賞内容にかかわった皆様へ心からお祝いを~。

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