見出し画像

ヤン・ルカンの考える汎用人工知能

ヤン・ルカン。人工知能に関わる方にとってはレジェンド級の人ですね。
今はメタ(旧Facebook)でAI研究を引っ張っていますが、有名になったのは、深層学習を生んだリーダーの一人としてです。

人によってはジェフリー・ヒントン氏を思い浮かべるかもしれませんが、ヒントン氏と一緒に研究していました。
この二人とヨシュア・ベンジオ氏のトリオが大体同じ研究グループとしてくくられ、今でも3人セットで評されることもあります。

例えば、下記メディアでは深層学習の「ゴッドファーザー」と表現していますね。

さて、そのルカン氏ですが、今汎用人工知能への新しい構想を描いており、その一端を公開したそうです。

要は、
汎用人工知能の実現には、従来のやり方でない新しい方法が必要で、認知アーキテクトを実装する必要がある、
という話です。

記事に忠実に従来のやり方を挙げておくと、以下のアプローチです。

  1. 大規模学習モデル

  2. 強化学習

  3. その他

代表例として、1だと言語モデルのGPT-3(今秋には4が出る噂)、2だとDeepMindが開発したAlphaGo及びその後継が挙げられます。

ルカン氏はいずれも否定的で、従来からあった方法を改めて見直すべきだ、と唱えています。

実は今年和訳された以下の書籍にも、そのフリをしています。

ここでも、上記同様に現状の学習モデル・強化学習では限界があると指摘し、我々の脳のような柔軟性を実現するために「自己教師あり学習」を提唱しています。
シンプルに言うと、自身で入力を隠して予測することでモデルを訓練する、というやり方です。

類似の学習方法が、冒頭で触れた同志にあたるヨシュア氏が開発したGAN(敵対的生成ネットワーク)です。
敢えて間違った画像を提示することで予測能力を向上させようというユニークなアプローチです。
皮肉にも、この性能が高すぎたがゆえに、DeepFakeでもこの技術が話題にされがちです。先進的な技術の宿命と言えるかもしれません。

1つだけ解説サイトを引用しておきます。

さて、ルカン氏の構想している話に戻します。

今回初めて言及したのは、「脳の認知アーキテクチャ」を参考にしよう、というものです。

歴史を振り返ると、深層学習は、元々脳の神経伝達を模倣したニューラルネットワークの応用です。
ただ、皮肉にも深層学習の成功以降は、むしろ脳の模倣は完全においておかれて、完全に数学的・工学的な研究分野になっています。

そんな物別れをした親と改めて会話して、その認知構造を模倣しよう、というわけです。

ルカン氏は元々、機械を人間のようにふるまえる方法を模索し、上記書籍でも改めて言及しています。

例えば、乳児は生後数カ月の間で、世界を観察しながら例えばモノは手を離すと落ちる、など基本的な学習をするそうで、この種の直感的な理性を全てまとめて「常識的判断(Common sense)」と呼んでいます。

この常識的判断こそが、上記の「予測能力」であり「知能の本質」と唱えています。
予測する機能を「コンフィギュレータ」と呼び、それによって記述される予測モデルを「世界モデル」と記事内では呼称していますが、残念ながらそれ以上の具体的な案はまだ内容です。(隠しているのかもしれませんが)

ただ、記事を読む限りは、本Noteでも紹介してきた、ジョフ・ホーキンスが唱える、1000の脳理論が連想されます。

脳の大脳新皮質を縦に貫くカラム(柱)の単位が、上記で言う「世界モデル」を学習し続け、最後はカラム間のコンセンサスが我々の主観的な心的イメージにあたる「意識」である「思考」である、という仮説です。

いずれにしても、そろそろ「人工知能」という言葉は見直す時期に来ているのかなと感じました。

元々は「強いAI」「弱いAI」、未だと強いが「汎用人工知能(AGI)」と呼称されますが、既に目的特化型AIが目的にかなった成果を遂げ、我々の人間社会に溶け込みつつあります。(AmazonやFacebookのリコメンドを見てAIを意識する人はもういないでしょう)

「汎用人工知能」の比較対象は今流行のAIではなく、あくまで我々の知能です。
最近、Googleが開発した言語モデルLaMDAが「感情を持っている」と主張したエンジニアが(情報漏洩を問われて)停職処分になる事件がありましたが、そういった騒動は本質を見誤らせる危険があります。

まずは出来れば、今成果を上げている目的特化型人工知能は「高度認識エンジン」とするなど、カテゴリ名称を変えてほしいです。

「人工知能」という言葉はあくまで「汎用人工知能」を目指しているものだけにして、無駄なノイズはキャンセルしてほしいです。

いずれにせよ、一度深層学習の提唱で大成功を収めたに関わらず、ルカン氏の探究心は衰えを知りません。すごいバイタリティだと思います。

今後は出来る限り静かな研究環境で観察して考察していきたいです。

※タイトル画像は、Wikipedia「ヤン・ルカン」より引用

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?