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生成AIとCRISPRの融合:未来の遺伝子編集を変える「CRISPR-GPT」

前回、Googleの分子構造予測AlphaFold3について書きました。

ポイントは、生成AIの最新技術(拡散モデル)を組み込んだことです。

これで生命科学の分野で、特に創薬プロセスにおける改革がさらに進むと予想されます。

実はこれと別に、もう1つ注目の架け橋があります。

その名も「CRISPR-GPT」。

つい先月、査読前論文がこちらに投稿されました。

以下要約です。

CRISPR-GPTは、大規模言語モデル(LLM)、ドメイン知識、外部ツールを組み合わせることで、CRISPR遺伝子編集実験のデザインプロセスを自動化・強化するエージェントです。

主な特徴は以下の通りです:

1. 単一遺伝子ノックアウト、二重鎖切断を伴わないベース編集、プライム編集による挿入/欠失/置換、CRISPRa/CRISPRiによる遺伝子の活性化・抑制など、幅広い遺伝子編集シナリオをサポート。

2. LLMの推論能力を活用し、CRISPRシステムの選択、ガイドRNA設計、細胞へのデリバリー方法の推奨、プロトコルのドラフト作成、編集結果検証実験の設計などを支援。

3. 「メタモード」で初心者にも一般的な遺伝子編集シナリオのパイプラインを提供。「自動モード」でユーザーの要求に基づき必要なタスクを自動生成。「Q&Aモード」で設計プロセス全体を通して質問に回答。

4. 専門家による評価の結果、精度、推論、完全性、簡潔性の全ての点で、汎用LLMよりも優れたパフォーマンスを発揮。

5. 実際の遺伝子ノックアウト実験でCRISPR-GPTの有効性が実証され、計算機設計と物理的実行のギャップを埋める可能性を示唆。

6. ヒトゲノム編集に関する倫理的・安全性の懸念に対処するため、ヒト被験者での使用制限、遺伝情報のプライバシー保護、意図しない影響への警告などの安全策を組み込んでいる。

by Claude3

技術要素のCRISPR-Cas9については、過去記事を載せておきます。(解説サイトは豊富にあります)

遺伝子編集自体は以前からあり、そのコスパを高めたのがCRIPRでした。
ただ、それでも、
「どのように(担い手となる)RNAガイドを設計するのか?」
「塩基配列のどこをチョキンと切るのか?」
など、工学的な作業や実験手続きは残っており、その一連のプロセスを効率化する手段としてGPTを採用した、ということです。

冒頭のAlphaFold3と別の動きと書きましたが、この論文はスタンフォードとプリンストン大学(特許出願中)に加えて、同社(Google DeepMind)従業員(Denny Zhou)も名前を連ねています。

今のところ繋がりはうかがえませんが、Alphafold3は生命分子の構造解析でCRISPR-GPTは遺伝子編集作業の最適化です。

それぞれが補完しあうことで、例えば合成生物学の分野も加速しそうです。※合成生物学のトピックについては、過去記事を添えておきます。

今の生物学は、分子レベルまで解像度が高まり、そして有限のデジタル情報によって遺伝子情報が構成されていることも分かっています。

ということは、同じくデジタル処理の申し子である生成AIとの親和性も高いわけです。

CRISPR-GPTについては、まだ査読前かつ特許出願中で、騒ぐのは早計かもしれません。

ただ、生命科学というまだ未開のフィールドが、生成AI(のTransformerと拡散モデル)という高性能な耕運機で一気に耕されているイメージは何となく感じられます。

続報に期待です。

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