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2023年ノーベル物理学賞:超短期の光が科学の可能性を広げる

10/3に2023年ノーベル物理学賞が発表されたので、今日はそれをかみ砕いて紹介します。
ちなみに、個人的に期待していた江崎玲於奈氏の再受賞はかないませんでしたが、偶然にもその基礎原理である「トンネル効果」にかかわるものでした。

名前が奇妙で話題になりそうな「アト秒」とは単位を表し「10の-18乗」秒を表します。
おそらくナノ(10の-9乗)か、次のピコ(10の-12乗)・フェムト(10の-15乗)しか聞いたことがない方が多いと思います。

もしかしたら、今回の一連の研究成果に最も驚いているのは「ハイゼンベルク」という科学者かもしれません。

今から100年前に、量子力学の不確定性原理やその計算方法(行列力学)を考案した方です。過去の関連記事を引用します。

当時唱えられた不確定性原理は現代では焼き直されていますが、言いたいことは、例えば原子の核の周りにある電子の位置や運動量は原理的に観測不可能だよ、ということでした。

が、100年後の現代、それを(リアルタイムとはいえませんが)超短い時間間隔で電子の動きを計測することができるようになりました。

今回の業績につながる科学的背景として、レーザー技術の発明があります。
ようは、光を綺麗に集約する技術で、その時間幅を先ほど触れたナノやフェムト幅まで短くすることを可能にします。

そのレーザーを使った実験で、奇妙な現象が発見されます。

突然ですが、「希ガス」という言葉を覚えているでしょうか?

出所:https://betashort-life.com/%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%B9/chemistry_highschool/mukikagaku/

元素表で一番右の列に属する元素で、名前のとおり存在が希(まれ)であることからこの総称が付けられました。

この希ガス(初めの実験ではアルゴン(Ar)を採用)にある条件でレーザーを当てると下図のような奇妙な分布が得られました。

出所:ノーベル賞公式サイト

右にいくほど高い周波数(=高エネルギー)で、上にいくほど光が強くなる(高いエネルギー密度)と思ってください。

何が奇妙かといえば、一般的には原子からエネルギーを取り出すのは徐々に難しくなります。つまり、常識的に考えると、右にいくほど常に縦軸は減衰するとおもわれていました。

ところが、謎の「平たい(PLATEAU)エリア」があります。

今回の受賞者の1人アンヌ・ルイエ氏は、そのメカニズムを解明し、それが冒頭にふれた「トンネル効果」も加味した量子力学法則に基づく理論でした。
ちなみにその理論には、ハイゼンベルクと同じく素粒子の動きを式で表した(そしてこちらのほうが今でもよくつかわれる)シュレディンガー方程式が使われています。

ちょっと飛躍したので補足します。

この謎の平坦エリアでは、減衰だけでなく謎のエネルギー生成が起こっているのではないか、と考えました。
その原因が原子内にある電子であり、そこから光(つまりエネルギー)を放出する現象を合理的に説明した、というわけです。

後年になってそのアイデアは他二人の研究者たちによってブラッシュアップされ、下記のような再散乱モデルとして確立します。

出所:ノーベル賞公式サイト

図だと分からない方のために、超直観的に説明すると、トンネル効果で電子が常識的にはあり得ない脱出を果たし、その過程で光エネルギーを放出する、と思ってください。量子力学という非常識な法則が根っこにあります。

ただ、こういった説明が続くと、冒頭ふれた「アト秒」どこよ?と思うかもしれません。

このとき放射された光(エネルギー)が、実験で使った(放射した)レーザー周波数の数倍で発生したのがミソです。

途中で触れたとおり、レーザー光はフェムト単位まで設計でき、その数倍の周波数ということは・・・次の単位であるアトへの布石が整ったというわけですね。

あとは技術的改善が続けられ、21世紀初頭に(受賞者たちの基礎基盤を引き継いだ)研究グループがアト秒の計測に成功します。
余談ながら、そのグループは、初めにこの現象を発見したパリ・サクレーというフランスの研究センターです。

基礎研究ですが、アト秒単位で電子を計測できるということはエレクトロニクスの分野に計り知れないほどの発展をもたらします。

またどこかで最新の成果を調べてお伝えしたいと思いますが、まずは今回受賞した3名に心からの祝福を送ります。

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