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未来に託す人体冷凍保存のいま

人体の冷凍保存は、広大な宇宙空間を移動するSF作品ではおなじみの手続きです。何十年/百年という寿命を超えかねない宇宙旅行にとっては、冷凍化によって生物学的な時間を止めるのは必須とも言えます。

そんな人体冷凍保存ですが、現実社会でも動きがあり、それについて解説した記事を見つけました。

まず、冷凍保存サービスのパイオニアとして知られているのは、アルコー延命財団です。1972年に設立された人体冷凍保存を運営する団体です。
次がクライオニクス研究所で、両社の公式サイトを紹介しておきます。

いずれも老舗ですが、歴史・規模・話題性としてはアルコーが目立つのでもう少し深堀します。

投稿時点での理事はラルフ・マークルという方で、元々は公開鍵暗号RSAの実用化に貢献した科学者として有名です。(RSA自体は元祖考案者の頭文字ですが、機密性のため実用公開しなかった)

公式サイトにあるCryoncics(クライオニクス)という言葉が人体冷凍保存を表す言葉です。

気になる同財団の実績と価格ですが、上記サイトによると既に冷凍保存を施した数が200名で、将来その希望をしているメンバーが1400名近く存在しています。
ちなみに有名人を一人挙げると、大リーグの名選手テッド・ウィリアムズもそれに含まれています。

価格は、公式サイトによると、全身凍結保存には最低 20 万ドル、頭部凍結保存には最低 8 万ドルが必要です。高いか安いかは何とも評価のしようがありません。

科学では「低温生物学」という分野がありますが、その専門機関からは好意的にはうけとめられませんでしたが、21世紀になって状況がかわってきています。

話題になったのは、2017年に行われた中国の山東銀豊生命科学研究所による人体冷凍保存手術です。
末期がんの女性に対して本人と夫の合意の下で、液体窒素により零下196度の特製容器に移されました。
将来蘇生技術が確立されたら、夫も同じような冷凍化を希望しているとのことです。
ちなみに、手術のアドバイザーとして、長年アルコーで技術責任者をつとめてきたドレイク氏を現地へ招へいして臨んでいます。

いずれにせよ、公式な学術機関が人体冷凍保存を行ったという意味で画期的な出来事です。

そして2019年にトゥモロー・バイオステイシス(Tomorrow Biostasis)
2022年にはサザン・クライオニクス(Southern Cryonics)社が人体冷凍保存サービス事業を始めました。
価格はアルコーを意識しているのか、いずれも近い数十万ドル前半で、生命保険とのセットで申請出来ます。(アルコー含めて、これと別に生前からSubscription Feeが月額数十ドル発生)

この産業サービス化の背景には、基礎科学の進展も絡んでいます。

冒頭記事例を挙げると、ナノテクを駆使して動物実験で細胞を傷つけずに解凍することに成功した研究成果も出ています。
通常だと冷凍して解凍すると水が膨張して細胞膜を壊してしまい、上記でその解決が期待されています。
そのほかにも、そもそも問題である体内の水成分を不凍液に入れ替えて行う、という案も研究されています。

人体全体でなく、臓器という単位で極低温保存する手法を開発する21センチュリー・メディシン(21st Century Medicine)になると、既に学術機関とも連携しています。

ただ、最大の難問は各パーツである臓器を元通りにすることよりも、「死」を「生」に戻すことです。
もっといえば「死」を理解することです。これが解けない限り、いかに生前と同じ肉体を復活させても意味がありません。

アルコーの公式サイトでもこの「死」の定義についての曖昧性にふれており、例えばそれはOnとOffでなくプロセスである、という意見もあります。

死をどのように定義して取り組むのか、科学技術に閉じないまさに総合格闘技ともいえる分野です。

みなさんは、冷凍保存されたいでしょうか?

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