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カクコツ 取材する②| 初めて会った人とは上手に話せません。

企業が発信するさまざまなメッセージを文字化するビジネスライティング。「カクコツ」では、その仕事内容と書くためのノウハウを、コピーライターとして30年のキャリアをもつコジマが解説しています。「取材する」編の2回めは、事前に送る質問項目(質問シート)とその目的について紹介していきます。

話したことが
そのまま原稿になる人


「なるほどわかりました。始めましょう」

わたしが媒体や掲載のねらい、
聞きたい内容、記事のボリュームなどを
ざっと説明すること数分。
彼はこう答えると、
こちらの質問に対してゆっくりと、
でも正確に話し始めました。

ある企業のサービスに関する
認知啓蒙を目的とするイベントの休憩時間。
そこに登壇する識者たちへの
インタビュー取材でした。
掲載するのは、そのイベントの
レポート特設サイトです。
正味の取材時間は
15分くらいだったと思います。
事前打ち合わせもありませんでした。

キャッチーな言葉が先に出てくる。
「起承転結」「序破急」などの
古い構文で話さない。
具体的な数字も挙げるけど、
こちらの再確認もお願いする――などなど
取材における彼の受け答えは、
話した言葉がそのまま原稿にできるような
的確な内容でした。

「これまで取材してきたなかで、
 言語化能力の点では彼がいちばんかも」。
そのとき、本当にそう思いました。

聞かれたことに
正しく答えるのは難しい

彼の名前は松本大さん。
マネックス証券の創業者です。

彼のような人はとても珍しい。
取材慣れしているビジネスピープルでも
多かれ少なかれ緊張します。
思ったことが話せなくなったり、
質問そっちのけで勝手に話したり。
軌道修正しようとすると、
逆に居丈高になったりする人もいます。

聞かれたことに対して正しく答えるのは、
本当に難しいことだと思います。

緊張と心配――
取材相手は不安をかかえている!?

でも、それが普通なんですよね。
自分のことに置き換えると、よくわかります。
たとえ自分の得意なこと、
専門領域がテーマであっても、
「取材させてください」となると
緊張しませんか?

(読者・閲覧者の役に立ちそうな話をしなければ)
(どんな話だと喜んでくれるのだろう?)
(あの話は…コンプラと広報に確認しなきゃ)
(記者・ライターさんはどんな人なんだろう?)
(会社や自分のPRもできたらいいな)

いろいろ考えて、
頭のなかがグルグルグルグル。
不安になったりします。
相手が初めて会う人なら、
なおさらそうですよね。

趣旨と聞きたいことをまとめた
「質問項目」(質問シート)

そんな普通の取材相手の
緊張と不安を和らげるために用意するのが、
事前に相手へ送る
「質問項目」(質問シート)です。
これは、取材趣旨を含めて、
こちらが聞きたいことを箇条書きにまとめたもの。
事前にこれがあると、
取材相手の緊張が相当ほぐれて、
よけいな心配も減るようです。

質問項目(質問シート)をつくるのは
ライターさんの仕事
です。
まれに、依頼元や広告主が
つくることがありますが、
ライターさんは必ずチェックして
気になる点があれば修正してください。
書く人が納得した質問でなければ、
原稿になる取材はできませんから。

質問項目(質問シート)は
気楽につくっていい

聞きたいこと、
書きたいことを列挙するのが基本ですが、
質問項目(質問シート)をつくる理由は
そこではありません。
取材相手に安心してもらうことです。

時間をかけてつくった
質問項目(質問シート)よりも
おもしろい話、新しい話が
実際の取材で出てくることはよくあります

逆にいうと、
質問項目(質問シート)以外の話を
聞き出すのが取材の醍醐味であり、
おもしろさでもあるのです。
取材相手に緊張や心配ごとがあったら、
出る話も出てこなくなりますよね。

そもそも人間は上手に話すことはできません。
初めて会った相手となら、とくにそうです。
でも、わたしたちは原稿になる話を
聞き出さなければなりません

質問項目(質問シート)はそのための準備、
安心して話してもらうための「ごあいさつ」
ぐらいに気楽に考えた方がよいかも。

次回は質問項目(質問シート)をつくる
具体的なポイントを解説したいと思います。




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