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パタゴニアは憧れだけど応用するのは難しい? 3社の事例からみるパーパスを届けるための戦略とは。

7倍!!!

2021年にパーパスという言葉がメディアで取り上げられた数は2016年と比較すると約7倍にもなるそうです。

今回はそんなパーパスをどうすれば広く届けることができるかについて
事例を交えながら書いていければと思います。

パーパスは「何を言うか」ではなく「何をするか」

まず、目的から整理します。パーパスを届けることの目的は、パーパスが伝わることで、ユーザーの共感・好感を生み、レピュテーションを形成し、それが結果的に売上や事業の成長に寄与することが最終的な目的だと思います。

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パーパスを届ける目的

ただ、それはパーパスを策定したことを単純にリリースしたり、パーパスの言葉をただただ発信しても共感されないし、ましてや売上や事業成長に寄与することは難しいと思います。

下記は博報堂社がコロナ禍(2021年)に行った「生活者のブランド期待に関する調査」です。

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『クリエイティブなマーケティング』より

この数値から社会を良くするメッセージを発信するのではなく、具体的な「行動・アクション」が求められているということがわかると思います。

パーパスは「何を言うか」ではなく、「何をするか(しているか)」が重要で、パーパスを真ん中においたコミュニケーションは「何をするか(しているか)」をベースにその行動そのものに対しての姿勢や考え方を発信の軸として考えていく必要があると思います。

「必要ないモノは買わないで」

例えばパタゴニアでは、2021年に中古品を専門販売するポップアップストアを出したのは記憶に新しいと思います。

そこでお店のいたるところに「必要ないものは買わないで!」というメッセージがありました。

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パタゴニアのポップアップストアにて

SNS上では、Buy Less, Demand Moreのブランドムービーの発信や

地球を救うためにビジネスを営んでいるという点に共通した活動をしている人を紹介するコンテンツを発信したりなどしています。

また、今はすでにショッピングバッグそのものが提供されていないですが、以前まだ提供されていた頃に

「できればショッピングバッグは地球に悪いからお渡しせず、商品のみのお渡しとさせていただけないでしょうか。」と言った旨を会計時に言われて、とてもびっくり(感動)しました。(言葉の詳細は忘れてしまったのであくまでニュアンスです)

一般的には買ってほしいから中古品の販売をおこなうし、ショッピングバッグについても上記のレベルで意識をしていない人の方が多いかもしれないですが、

これは「故郷である地球を救うためにビジネスを営んでいる」というパーパスを掲げるパタゴニアならではの行動だと思います。

このパーパスに基づいた行動は、多くのファンによって共感され、たくさんのパーパスに共感する声がSNS上にも日々上がっています。

全てのブランドがスーパースターブランド「パタゴニア」になれるわけではない。

ただこれはとても再現性の低い事例なんじゃないかと僕は考えています。

パタゴニアほど独自性や個性があり、社員(日本の店員さんまで)にパーパスが浸透していて、熱量の高いファンがいるというのはとても珍しいのではないかなと思うからです。

それは、パタゴニアが「実務家ブランド論」でいう一部のスーパースターブランドだからだと思います。

「実務家ブランド論」の中でスーパースターブランドとは、世の中にない独自性と差別化された商品・サービスを提供するために生まれ、世の中に圧倒的に支持され愛されたブランドのことと記載されています。

商品はコモディティ化され、働き方の多様性が進んでいる社会の中で、
上記のパタゴニアと同様の規模感で、同様の条件がすべてクリアできている(今後できる)ということはとても難しいのではないかなと思うのです。

スーパースターブランドではない以上、パタゴニアの事例を抽象化し、仮に自社流にアレンジしたとしても、パーパスを広く伝えていくことは難しいのではないかと考えています。

ではパタゴニアの事例からではなく、なにを道しるべにすればいいのか。

パーパスを伝えていくための構造から考えてみたいと思います。

共感するブランドがある生活者は1割しかいない

前述したように、パーパスを伝える目的はパーパスに共感してもらうことで
ポジティブなレピュテーションを形成することです。

ただ、博報堂社が行った調査によると「世の中で共感するブランド」がある生活者は1割強にとどまるそうです。

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(博報堂「ブランドパーパスに関する生活者調査」レポートより)

また同調査では、共感する企業やブランドに対しては定期的に自らでブランドの情報を取りに行き、周りの家族や友人に勧める人が多いことがわかっています。

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(博報堂「ブランドパーパスに関する生活者調査」レポートより)

ここにスーパースターブランドのパタゴニアとのギャップはあると考えます。

パタゴニアは共感するブランドがある1割のユーザーが多いため、ブランドの情報を自発的に知りに行き、そして知人に勧めてもらうことで広まっているのではないかなと思います。

スーパースターブランドではない場合は自発的に情報を調べる人は多くないため、なんらかのコンテンツを届け、そのコンテンツを通してパーパスに共感してもらう必要があると思います。

そのコンテンツとは、パーパスは「何を言うか」ではなく、「何をするか」が重要であるため、パーパスに基づく行動をコンテンツ化したものになります。

そして共感してもらうためにはワンメッセージではなく、それなりの情報量が必要になると思います。

ただ、その企業やブランドに興味関心度合いがそこまで高くない人が情報量多いコンテンツを簡単には受容してくれないので、受容してもらうための仕掛けや、共感してくれたユーザーからの発信によってパーパスを広く届けるため共感してくれた人が発信しやすい場づくりをしていくこと。

この二点を意識して情報を設計していく必要があります。

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ここからはいくつかの事例を交えながら、パーパスを真ん中に置いたコミュニケーションの具体的な方向性について考えていきます。

パターン①Twitter×インフルエンサー×OOH

1つ目の事例は講談社の「World Meets 講談社」になります。

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講談社の「World Meets 講談社」

このキャンペーンは、パーパスである、「Inspire Impossible Stories」を広く届けるためのキャンペーンです。

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講談社の「World Meets 講談社」の構造

「Inspire Impossible Stories」とは作り手と読者・ユーザーの両者に新たな発見や創造性を提供し(=Inspire)、あり得ない、見たこともないような(=Impossible)物語(=Stories)を生み出し続けるということだそうです。

このキャンペーンは世の中にありえない物語を生み出している人、つまり影響を与えている人に講談社のどんなコンテンツに影響を受けたのかを語ってもらう企画となっていて

例えば、大谷翔平選手の場合、講談社のコンテンツ(ダイヤのエース)を通して新たな発見や創造性を提供される。メジャーでMVPというあり得ない・見たことのいないような物語が生み出される。それが他の人たちにも続いていくということなのかなと思います。

つまり、このコンテンツが表現しているのは講談社のパーパスに基づく行動の1つの結果であることがわかります。

大谷翔平選手や北野武氏など超大物をはじめ、東海オンエアの虫眼鏡氏や藤田ニコル氏など若年層に支持がある人たちまで幅広く著名な人たちが参加しています。

この著名な人たちがパーパスの体現者となることで、その人たちのファンのもとに届き、そのファンが講談社の持つ「Inspire Impossible Stories」に共感していく形になっています。

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コンテンツは渋谷や大阪での屋外広告や、TwitterでのフォロリツイートCP、
そのほかPR施策で様々なメディアでの露出など幅広くリーチを獲得しています。

ユーザーは主にTwitterで発信していて、内容はキャスティングされた人たちへの好意的な内容がほとんどで、渋谷などの屋外広告を投稿のフックにファンからの発信が多数されていました。

パターン②Twitter×新聞×WEBメディア

2つ目の事例はユニリーバ社のLUXの事例になります。

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ユニリーバ社のLUX

LUX(ラックス)は、「女性が理想の自分に近づくために社会のルールや固定観念に囚われることなく、自分らしく輝くためのサポートをすること」をブランドパーパスに掲げています。

そんなLUXはジェンダーギャップを少しでも解決するために、女性にまつわる社会問題の解決を目指したプロジェクト「LUX Social Damage Care Project(ラックス ソーシャル ダメージ ケア プロジェクト)」を発足しました。

#性別知ってどうするの」キャンペーンを展開。このキャンペーンは、採用の履歴書から顔写真と性別欄をなくし、採用における性別のフィルターを排除するための取り組みです。

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LUX Social Damage Care Project(ラックス ソーシャル ダメージ ケア プロジェクト)
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LUX Social Damage Care Project(ラックス ソーシャル ダメージ ケア プロジェクト)の構造

Twitterでは3月と6月に第1弾、12月に第2弾という形でキャンペーンを展開しました。第1弾では、カンバセーションボタンや画像・動画広告による広告配信に加え、NewsPicksの「THE UPDATE」のライブ配信を実施。

日本経済新聞への広告出稿、採用にまつわるWeb動画の配信、ハフポストでのタイアップ記事の出稿など、様々な形で採用において応募者の性別を知ることの必要性について疑問を投げかけています。

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新聞15段やWEB広告を通して、メッセージ性のあるクリエイティブでアテンションを獲得することにとどまらず、マンガを使って理解を促進し、NewsPicksの「THE UPDATE」やハフポストの生配信を通して、マンガを使って理解を促進しNewsPicksの「THE UPDATE」やハフポストの生配信を通して、ユーザーも自分の意見を言いやすい場を作りました。

その結果、Twitter上ではかなり多くの声が上がる結果となりました。

SNSを真ん中に置いて立体的に設計することが1つの勝ちパターン

この2つの事例からパーパスを広めていくためにはSNSを真ん中に置いて立体的なコミュニケーションプランを考える必要があるということがわかると思います。

一方でとてもインパクトのある施策だと思いますが、実際にこの内容をおこなうにはお金や人員など多大な資源(特にお金)が必要となると思います。

このような数千万円から数億円規模のプロモーション予算はなかなか望んで出来るものではないのかなと思います。

まずはある程度のサイズでやっていきながらパーパスを広めていきたいという方も多いのではないかと思います。

そこで上記2つほど資源(リソース)を割かずにできる施策を事例を交えながら考えてみたいと思います。

パターン③Twitter×オウンドメディア

パーパスに基づく行動や姿勢をもとにしたオウンドコンテンツを届け、そのコンテンツに共感してもらい、発信してもらう方法です。

事例としてはカルビー社のTHE Calbeeというnoteの事例になります。

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THE Calbee

カルビー社では、社員の働く姿勢や、商品開発の想いや創業のストーリーなどをインタビューを通してコンテンツ化しています。

それをフォロワーを中心にTwitterで発信し、その記事を見てくれて共感してくれた人がTwitterでシェアをしてくれる。という構図になっています。

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THE Calbeeの構造

note×Twitterはパーパスを届けていくのにとても有効で、パーパスブランディング以外にも採用広報やインナーブランディングなど副次的な効果も見込めるのですでに多くの企業が実施しています。

SNS×特定のコンテクスト×広告

最後は、局地的にパーパスをその人たちの文脈に合わせて伝えていく施策です。

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パーパスに基づいた行動をさらに分解してある一定の人のみに受容してもらえそうなところを切り取り、その文脈に合わせたコンテンツを作ってその人たちだけにピンポイントで広告を使って届けます。

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パーパスを起点に特定の人に人気のある人(カテゴリーインフルエンサーなど)をアサインしコンテンツを作ったり、特定の人に深く刺さる文脈を活かしてコンテンツを作るなど、とにかく尖らせて特定の人のインサイトに深く絞ることが特徴で、それを様々なパターンで繰り返し行うことでパーパスを色々な角度から重ねて届けていくことがポイントです。

広告で狙った相手に届けることで、パーパスに共感してもらい、エンゲージメントを通してより広く届けていくことを狙います。

まとめ

ということで今回はパーパスを広めていくための施策を4つ事例も交えながらご紹介してきました。

パーパスを伝えるためには、パーパスに基づいた行動をコンテンツ化し、
そのコンテンツを届け、共感・好感が生まれ、ポジティブなレピュテーションが形成されることで、売上や事業成長へとつながります。

また、パーパスを共感しくれたユーザーが発信することで、パーパスが広まっていきます。

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パーパスを新たに作り、リソースが潤沢にあって広めていきたいという場合は、キャンペーンで立体的に情報発信の設計をおこなうのがおすすめです。

リソース的に難しい場合はAlway on型で1つ1つのコンテンツをフックに
パーパスを伝えていくことがおすすめです。

ただ永続的にキャンペーンができるわけでもないので、Always on型でどうやって浸透していけるかについてはリソースのあるなしにかかわらず、重要になってくるかと思います。

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ということで今日はパーパスを伝えていくためにはどうしたらいいのかをまとめてみました。

読んでいただきありがとうございました!!

〈参考文献〉
・『クリエイティブなマーケティング』藤平達之(現代書林)
・『実務家ブランド論』片山義丈(宣伝会議)
・「博報堂「ブランドパーパスに関する生活者調査」レポートー生活者が共感するブランドパーパスの視点と、パーパスのマーケティング・経営上の効果を分析」博報堂 (The Central Dot magazine)https://www.hakuhodo.co.jp/news/newsrelease/87994/
・「ユニリーバに学ぶ、パーパスドリブンのTwitter活用 重要なのは4軸のアプローチ」MarkeZine編集部(MarkeZine)https://markezine.jp/article/detail/36288

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