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AIが選ぶ最善と、人間のそれ イアン・マキューアン『恋するアダム』

イアン・マキューアンの『恋するアダム』について。

イアン・マキューアンは、1948年生まれのイギリス人小説家です。2007年に出版された『贖罪』(原題:Atonement )が映画化(邦題:《つぐない》)されゴールデングローブ賞や英国アカデミー賞を受賞しており、日本でも知名度の高い人気作家です。マキューアンの作品は非常に分かり易い上に、文章のプロでもない僕でも「上手いなー!」と唸るほど展開が見事な完成度の高い作品が特徴です。

恋するアダム (新潮クレスト・ブックス)

今回紹介する『恋するアダム』は、AIアンドロイドを購入した主人公の独身男性がそのAIの能力のおかげで意中の女性と恋仲になるのだけれども、アンドロイドがその女性に恋心らしきものを抱き始める。。。というのが大まかなあらすじです。

未来予想をした小説は、時間が経つと恥ずかしくなる事も少なくないけれども、この小説はAIが発達した1980年代という実際には起こらなかった過去を舞台にしており、機械の知性を問う「チューリングテスト」で知られるアラン・チューリング(1954年没)が存命していたりと過去が改変されています。そういう点も、「この小説家うまいことやっとるなー。」と唸らせてくれます。

近年では様々な分野でAIが活躍しており、音楽製作でも欠かせないものとなっております。僕が使用しているオーディオリペアのソフトは幾つかの案を提案してくれるので、僕が行うのはその中から一番良いと思うものを選び、少し調整するという作業だけになります。(本当にそれが最善なのか確かめるため、結局色々といじってしまうのですが。。。。)
これと同じように、作曲においても様々な論理(調性12音技法、自分自身が作ったシステムなど)が様々な提案をしてくれます。自分の表現したいものを実現するために、どのようなシステムで作曲するか?から始まり様々な選択をすることになります。中には、システムが自分の想像力では思いつかなかったようなユニークな案も提案してくれるので、この選択は簡単ではないことが多いです。
また、そのような選択には絶対的な正解というものがありません。となると、創作というのは正解のない選択への決断の連続ということになってしまうのですが、それが創作の面白い所なのだと思います。

この小説のラストでは、AIが導き出した最善(選択)が人間にとっては受け入れ難く悲劇的な結末を迎えます。この小説内でも言及があるトロリー問題(多くの人を助けるためなら、1人を犠牲にしてもよいのか?という倫理的ジレンマ)のように、正しい答えが分からない問いの選択は、結果がどうであれ人間がする羽目になるのかな?と思いました。

トロリー問題のような倫理的な選択に比べると、作曲のシステムが提案してくれる案からの選択は気が楽かもしれないですね。下の作品は、自分で作ったシステムで作曲した作品になります。このシステムは、提示してくれる選択肢の数が少なかったので選択は楽でしたが、システムを考えるのに時間がかかりました。
映像は、音楽に反応するパッチをプログラミングで作成しております。

〈 VI. 数を数えるための "Count"〉from《17 Etudes for Piano, Keyboard and Movie (2017)》

〈 VI. Count〉from 《17 Etudes for Piano, Keyboard and Movie (2017)》(2018.2.5 ver.)
〈6. 数を数えるための〉 《17のエチュード》ーピアノ、キーボード、映像のための より(2018.2.5 ver.)

Music & Movie & Electronics & Performed by Koji Takahashi
作曲・映像・出演・演奏・編集:高橋宏治

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