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【面白数学】11 -フジロックの帰り

とある年のフジロックの帰り。

越後湯沢駅までの帰りのバスに乗るための列が、長く長く続いていた。

時刻はお昼過ぎ。7月下旬の猛暑だ。

フジロック恒例の雨に見舞われた三日間が嘘のように晴れ渡っている。

いったいいつになったら乗れるのだろうか?

牛歩でしか進まない列の中、タオルを頭にのっけて気休め程度の日除けをしながら考えていた。

バスは巡回しており定期的にやってくる。何やらほぼ等間隔くらいのタイミングでバスが来ているように思われた。

今自分がいる位置から、バスへの乗り場までは、目算でおよそ200メートルくらいある。

あ!っとそこでひらめいた。

今から10分の間にどれくらい列が進むのかを測る。

たとえばそれが40メートル進むとしよう。

すると、10分で40メートルだから、50分で200メートル。つまり、「いったいいつになったら乗れるのか?」の問いに対して、およそ50分後という予測がたつ。

面白数学の図_アートボード 1-01

50分なげーなーと思っても、いったいいつになるのかともやもや考えるストレスを抱えるよりはマシかもしれない。

ということで、測ることにした。

時計をみる。12:20。

足元と周囲を観察する。目印となる看板を見つけた。よし、ここから12:30までどれくらい進むかだな、と。

隣にいた鈴木さんに考え方とやっていることを伝えた。いいね、と言われた。

ふと見ると、鈴木さん、日傘をさしている。

「ちょっと、もう少し、上に持ち上げてみて」

日傘によってできる影が大きくなることを期待した。でも、影の位置がズレただけで影は大きくならない。

すぐにそっかと、なった。

期待していた構図は、図にするとこういうことだ。

面白数学の図_アートボード 1-06

影が大きくなることは、無意識に光のあたり方がこうなっているモデルで考えていた。

でも、太陽ははるか遠くにあるため、実際の光の当たりかたはこう。

面白数学の図_アートボード 1-04

日傘を上に上げても、こうだ。

面白数学の図_アートボード 1-05

なるほどなぁと思っていたら、あっという間に12:30。進んだのは目算でおよそ20メートル。

嘘でしょ。先ほどの計算式に当てはめると、バスに乗れるまで100分(進んでいるからあと90分)もかかる!

面白数学の図_アートボード 1-02

ドンヨリとした気分になっていると、そこにちょうど新しいバスが何台か投入された。よし、これで列が進むスピードはやまるぞ!

また10分はかる。

今度は40メートル進んだ!
ってことは、あと35分くらいで乗れるはずだ!

そうして、およそ35分後。
無事バスにのれた。

炎天下で辛かったけれど、ほんの少し検証の楽しみで辛さが緩和された。

しかしようやく乗れたバスも、その中はパンパン。
また別の辛さがやってきた。コロナ禍の前、まだギュウギュウの密着時代だ。

そんな人混みの隙間、バスの窓から苗場プリンスホテルがだんだんと小さくなる。

フジロックの夏が遠ざかっていった。

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