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佐藤先生に教わったこと-#43

このnoteは、星功基が2003年〜2007年に慶應義塾大学佐藤雅彦研究室に在籍していたころに佐藤先生に教わったことを思い出しながら書いているものです。

トーン(ある独特な世界観→効用:想像のおもむき→∴余韻が残り印象に残る)考察。

今回は、色調について、です。

事例その①

以前、バザールでござーるは、あえて映像をコピーして劣化させていたという話を書きました。目がパキッとしてしまうのを避け、トーンを整えるためということでとどめましたが、改めてこの整えたトーン、想像のおもむきの効用について考えたいと思います。

バザールでござーるは、その名前の質感からどこかヨーロッパの香りがします。家系図をみると、やはりという感じです。


その世界観を伝えるため、コピー劣化にどんなトーン整えの効果があるかというと、イメージとしては、「ヨーロッパの骨董市でたまたま手にとった昔の絵本」の質感に整うのではないかと思います。

経年劣化によって色合いが微妙に変化した紙の質感、そんな質感に。

上の家系図も、微妙に中央に本のノドのようなニュアンスを加えています。このような微妙な調整で、ヨーロッパの古い絵本のトーンを作り上げているのではないでしょうか。

事例その②

2つ目の事例は、ドンタコス。

ドンタコスのCMは、メキシコの現地ロケで撮られています。出演者も現地でのオーディションで。そういう出演者やロケのトーンもさることながら、現地で撮影することのトーン整えの効果は、現地の「光」ではないかと思います。

どんなに日本で精緻にセットを整え、現地でオーディションした人を日本に連れてきたところで、メキシコの自然光は再現できません。

照明さんの技術を駆使すれば届くのかもしれませんが、人間の目は、メキシコの現地の光を、なんとなく、なんとなーく感じてしまうものなのではないでしょうか。

そういう光のニュアンスから、メキシコの本場感に想像がおもむき、トーンが整うのだと思います。

事例その③

最後は、佐藤研のNHKで放送した「考え方が動きだす〜アニメーションスタディ〜」。

この番組において、研究室のカットを撮るとき、ホンマタカシさんが撮ってくださったのですが、そのときに贅沢にもフィルムで撮ったのです。これはおそらく先生からの指定か、ホンマさんと相談しての選択だったのだと思います。

フィルムで撮ることによって、画面が視聴者との距離感を若干離す効果があるように感じます。これをデジタルカメラで撮ると、ドキュメンタリー感が強まって、身近に研究室を感じると思うのですが、身近であればいいというものでもなく、「考え方が動きだす〜アニメーションスタディ〜」はかなり異質なアニメーションたちが登場しますので、少し視聴者と距離をとって、これは少し離れたとある研究室の、みたいな画面の表情にしたほうが視聴者も安心するのだと思います。

色調とは違うトーン整えでいうと、番組の中では、ピーター・バラカンさんがナビゲーターとして登場するのですが、その落ち着いたナレーションの声もさることながら、バラカンさん自身が登場する撮影場所は、NHKのディレクターブース。ここで撮影することによって、研究室というものをある種の実験サンプルとして観察するような、どこかメタな認知を、バラガンさんを通して、視聴者が獲得することになります。

視聴者との距離感を適切に設計するため、このような微妙な調整をしているのです。

次回は最終回。(の予定)

音調でのトーン調整について、です。

よろしくお願いします。

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